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「相川の幸せを願うなら、お前が体張りゃーいいだろ?所詮他人なんか宛にすんなよな」 振り返った狩野は、静かに淡々とした口調で、だけど一刀両断だった。 「俺はお前、狩野のことは信じてるよ」 「別に嬉しくねーよ」 「そーか?」 「当たり前だろ?」 狩野はあっさりと俺の願いを退けながら、それでもまだ隣にいてくれた。 —— そろそろ相当呆れられてると思うんだけど… 俺は、手の内をさんざんばらしてしまった気まずさに打ちのめされながらも、それでもまだ救いを求めるように、狩野に頼っているのかもしれない。 狩野は賢くてテニスも上手くて、本当によく出来た男で、俺も狩野みたいに出来がよければ、こんな狭いところにはまり込まなかっただろうか? 狩野だったら、もっとうまくやれたんだろうか? 例えば身動きが取れなくなるほど、相川が大切で仕方がなくなる前に。 「田島はなぁ、贅沢だよ」 「そーかな」 「そーだよ。誰かを傷付けたくないなんて、自分を自己嫌悪から守りたいだけだろ?」 言葉の辛辣さとは裏腹に、狩野の声も顔も穏やかで、俺はやっぱり、狩野には高い評価を与えたくなる。 俺みたいな不甲斐ない奴より、ずっと幸せにしてくれるような気がする。
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