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「ちょっとびっくりしたけどな」
「てかお前、桜井にまでばればれなのな」
「そう。お前にもばれてるし」
誰にも話した憶えはないのに。
「偽善者って言うよりも田島はー……ただの不器用だろ」
「そうかな」
「本物の偽善者ってのはきっと、もっとうまくやるもんだろ。気にすんなよ」
「別に気にしてねーけど」
「まぁ、とにかく頑張れ青少年」
そう言って狩野は、俺なんかよりよっぽど油断ならないような隙のない完璧に爽やかな表情を、無意識なんだか知らないが、一瞬にして創り上げた。
俺なんかの好感度あげても仕方ないだろうに、こういうとき、狩野はすごく狩野らしい、と思う。
その顔に似合わない、とても同級生とは思えないおやじくさい捨て台詞を残して、狩野は一人さっさと部室棟のほうへ消えた。
手にもったタオルをくるくると振り回し、真っ直ぐと伸びた背中は潔くって、なんで狩野には彼女がいないのだろうといつものように考える。
絶対もてるはずなのに。告白なんてがんがんされているに違いないのに。
俺の知る限り、狩野はいつだって一人だ。
—— 知らされてないだけなのかなぁ
まぁそれならそれで、構いはしないのだけれど。
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