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—— 他に彼女作るなんてもっと無理なんだけどさぁー……
掴んでいた右手をそっと離す。
「お前の手って、意外と華奢なんだな」
「はぁ?何急に」
「いや別に。かわいいなぁと思ってさ」
「だ、大丈夫か?」
「何が?」
「なんか変だよ」
「変じゃないよ」
いつだって俺は、そう思ってたよ。ただずっと、言わなかっただけなんだ。
面と向かうのが恐くて。ずっと隣り合わせに並んでいたくて。
確かめたくなかったんだ。
相川の本心も。
相川の瞳に映る自分の本心も。
「お前。今日はチャリ?」
「今日は歩き」
「じゃぁ送ってやるから。駐輪場で待ってな。俺、着替えてくるから」
相川が頷いて、踵を返して歩いていく。
後姿は見慣れたもので、いつの間にか追い越していた身長差を、何となく複雑な気分で見送っていた。
いつだったかようやく背丈が並んだ時、俺はまだ相川のことなんて意識していなかったけれど。視線の位置が変わるに従って、色んなものがよく見えるようになって。
いつの間にか自分よりも小さくなっていた相川が、ひどくかけがえがないと気付いてしまって。
その感情は、甘く優しく。
禁断の果実のように、気付いてしまえば最後、なかったことにはもう出来ない。
ただ、親しげに無邪気に寄せられる信頼も手放したくなくて。
ずっとただじっと、そのまま動けずにいたんだ。
—— でも俺はさー、相川
—— お前が思うほど、人畜無害じゃないかもしれんよ?
ただ、それを知られたらもう、側にはいられないような気がして恐かったんだ。
偽善者でも何でもよかった。ずっと近くにいられるなら何だってなる。と、思っていたのに。
まさか、耐えられなくなるなんて馬鹿みたいだな。
人間は欲張りだ。
その望みに果てはなく、ずっと。
いつの間にか、全てを手に入れたくなってしまう。
そばにいられればそれでいい、と。
その願いに嘘なんてなかったのに。もう。
相川が、誰かに泣かされるのなんて見たくはないけど。同じくらい。
誰かの隣で幸せそうな姿も、見たくないんだ。
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