1/3
前へ
/35ページ
次へ

夕焼けの町は、いつもの通りに鮮やかで優しかった。 俺は、この沈み行くような時間が好きだった。 赤くて、眩しくて、一瞬で。 幻みたいにすぐに消えていく。 相川を自転車の後ろに乗せて帰るのことには慣れている。俺たちは小学校も中学校も同じで、だから家も近くて、相川がバスで登校した日には、ついでだからと乗せて帰る。 それはよくある光景で、慣れた日常のひとコマで、別に、特別な意味なんかないはずなのに。 両肩にかかる微かな重みが、その手の、感覚が。今日に限って妙に生々しくて、どうしたらいいか分からなくなる。 相川の何が変わったのかな、と、思ったけれど。 違う。 変わったのは、俺だ。 —— 狩野が余計なことを吹き込むからだ…… どうせなら、百戦錬磨の口説き文句なんか教えてくれたほうが良かったのに…… 駆け出しそうな鼓動を押しとどめるように、俺はゆっくりと深呼吸する。 肩につかまる相川に気付かれないように、そっと。 「私さぁ、また振られたわ」 「うん」 「もう何度目だっけ」 「さぁ」 「なんか、振られてばっかよね」 「だな」 なんでかなぁ……?私、なんかだめなのかなぁ?と、呟いた言葉は、平静を装っていたけどうまく取り繕えていなくって、なんだか痛々しく響いた。けれど、俺はそれにも気付かないふりをしてしてやった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加