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相川がうまくいかない理由なんて俺には分からない。けれど、うまく行かなくていいと思ってる。
全然、まったく構わない。そのほうがずっといいに決まってる。
でもたぶん。いつか、もうすぐそのうち。
気付く奴なんて出てくるんだろうな。俺以外にも。
相川は、凄く綺麗に走って。それは、音もなく吹きぬける風みたいで。
相川の手は予想よりずっと華奢で、頼りなくて。
かけがえがない存在だと、気付いて手に入れたくなる奴が。
そいつを目の前にしたとき。その隣に並ぶ相川を見たとき。
俺はどれだけ平静でいられるだろうか?
川沿いの道を走っていた。
ゆっくりと、ブレーキをかけて速度を落とす。
え、なに?と、相川が怪訝そうに声をかけるのも無視して俺が自転車を止めると、相川も後輪から飛び降りた。
「どうしたの?」
「ん」
水面に反射した夕焼けの残りが相川をオレンジ色に染めて、俺は、ひとつの確信をする。
—— やっぱり、やっぱりな……
オレンジ色と影の、強いコントラストの中で、相川がひどく、鮮烈に目に映る。
目を閉じても、そらしても、その印象は鮮やかなままで。
もう、無理だ。幾ら深呼吸したって全然。
薄れてはくれない。
もしいつか。誰かが。
この稀有な存在を、連れ去ってしまうのを俺は。
ただ黙って見送っているなんて絶対出来ないだろう。
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