8 Fin

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相川の目が揺れている。不思議そうに、不安そうに。 揺れている。 ああ。新しい世界はどんなところだろう。 幸せなだけではないとしても。 もう、もしかしたら近くにいられないとしても。 でも。 —— 泣くなよ……お願いだから、絶対に泣くな そう思いながら、俺は衝動に負けて強く手を引いた。 ひどく簡単に引き寄せられる。 ぶつかってくる、その衝撃は、目が回るほど甘くても。 —— 何でこんなに息苦しいんだろうな… 相川の肩は、予想してたよりもずっと小さく、その背中は、びっくりするほど頼りなかった。力を込めたら簡単に潰してしまいそうで、強張ったままの腕を恐る恐る背中に回す。 馬鹿みたいだけど、俺は。ずっと一緒に育ってきたから、自分とこんなに違うだなんて、思ってもいなかったんだ。 うまく抱きしめる事も出来なくて戸惑うまま囲った両腕の間から、相川があっけに取られたような顔で見上げていた。 たった今自分で壊してしまった安らかな日々を。 懐かしむように目を閉じた。 もう、戻れない。もう、二度と、戻れない事に。 少なからず打ちのめされて、俺は。 「好きだったんだ。ずっと」 腕の中で、相川がいっそう小さく身を縮める。 「ごめんな」 終わり行く夕焼けの中で。 桜の葉が鳴り続けるその下で。 吹きぬける風を背中に受けて。 俺たちはずっと、動けずにいた。 なんだか哀しくて、切なくて、幸せの予感というには程遠くても。
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