16人が本棚に入れています
本棚に追加
相川の目が揺れている。不思議そうに、不安そうに。
揺れている。
ああ。新しい世界はどんなところだろう。
幸せなだけではないとしても。
もう、もしかしたら近くにいられないとしても。
でも。
—— 泣くなよ……お願いだから、絶対に泣くな
そう思いながら、俺は衝動に負けて強く手を引いた。
ひどく簡単に引き寄せられる。
ぶつかってくる、その衝撃は、目が回るほど甘くても。
—— 何でこんなに息苦しいんだろうな…
相川の肩は、予想してたよりもずっと小さく、その背中は、びっくりするほど頼りなかった。力を込めたら簡単に潰してしまいそうで、強張ったままの腕を恐る恐る背中に回す。
馬鹿みたいだけど、俺は。ずっと一緒に育ってきたから、自分とこんなに違うだなんて、思ってもいなかったんだ。
うまく抱きしめる事も出来なくて戸惑うまま囲った両腕の間から、相川があっけに取られたような顔で見上げていた。
たった今自分で壊してしまった安らかな日々を。
懐かしむように目を閉じた。
もう、戻れない。もう、二度と、戻れない事に。
少なからず打ちのめされて、俺は。
「好きだったんだ。ずっと」
腕の中で、相川がいっそう小さく身を縮める。
「ごめんな」
終わり行く夕焼けの中で。
桜の葉が鳴り続けるその下で。
吹きぬける風を背中に受けて。
俺たちはずっと、動けずにいた。
なんだか哀しくて、切なくて、幸せの予感というには程遠くても。
最初のコメントを投稿しよう!