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それにしても、なんでも言ってしまうんだなぁ……しかもこんなすぐに。遠くの人影を見ながら、溜息をつきたくなる。
「その通りだと思うよ。あいつも少しは、気付いたほうがいいんだ」
ね?と、にこやかに覗き込んできた狩野君はもうすっかり着替えて荷物も持っていた。
「だからもう帰ろう」
「え、でも、鍵」
部室の鍵は、マネージャーがかけて返すことになっている。
「いいよ、ほら、あいつももう戻ってくるし」
外を見ると、確かに田島君はこっちにむかって歩き出したところだった。
「でも……」
「いいってたまには。田島にやらせようぜ。さっき桜井をいじめた罰」
そう言うと狩野君は、いつもの爽やかさを一瞬ひっこめてにやっとすると、いつのまに取り出したのかひらりと1枚のルーズリーフに『戸締りヨロシク』と殴り書いた。
重しのように真ん中に鍵をのせて、机の目立つ位置に置いた。
「行こう桜井」
狩野君に強引に促されて部室を出る。意図的なのか何なのか、田島君から逃げるように部室の塔の裏を回る。
「桜井はチャリ?」
「うん」
「じゃあさ、なんか食ってかない?俺、腹減っちゃってさぁ」
「いいよ」
狩野君の軽々とした言葉を聞いているうちに、あっさりと駐輪場に到着する。朝には通路にはみ出してまでぎっしり埋まる駐輪場も、この時間になるとだいぶまばらに空いている。
狩野君がふと足を止め、私もつられて立ち止まると、狩野君はくるりとこちらを振り向いた。よく見慣れた、感じよい優しい表情だった。
「お好み焼きとラーメンどっちがいい?」
「え?どっちでも」
「じゃあ俺はー……」
狩野君の言葉が終わらないうちに、隅の方でがしゃんと音がした。ふりむくと、そこには足の早いすらりと綺麗な人がいた。
狩野君が、小さく舌打ちをした、気がした。
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