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「狩野は桜井が好きなの?」 無邪気な顔をしてなんてことを訊くのだ、と思った。 「桜井のことはみんな好きだろ?」 辛うじてそう答えたら、納得したみたいで安心した。 どっちかって言うと好みは相川、なんて、白々しいにも程がある軽口をたたいてみたら、田島は簡単に信じてしまった。 まぁ、あながち嘘ではないけれど。ああいう、背の高い運動神経のいい子は嫌いではないけれど。 嫌いではない、と、好き、の間にある何ものか、について、随分前から考えている。 きっとひどくさり気なく、しなやかで強靭で、確かな存在感を湛えた境界だろう、と想像している。 狩野は誰が好きなの、と、聞かれなくってよかった。 そんな難しい事を聞かれたら、本当に答えられない。 部室の窓からカーテンがはためくのが見えたから、桜井はまだいるのだと分かった。 部室に鍵をかけるのはマネージャーの仕事で、妙に真面目な彼女がなんの言伝もなく職務放棄して先に帰ることはない、と知っていたのにのろのろしていた。悪いことをしたなと思う。 着替えたりしてても困ると思って外から声をかけると、桜井はすぐに扉を空けてくれた。同時に辺りの空気が強く吹き込む。 風に舞って散らばった紙片をざっと見ても特別急ぎの仕事とも思えなくて、つまりは時間を潰していたのだろう。
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