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職務を全うしようという桜井には大変申し訳ないが、ここはひとつ迅速に、職務放棄を促すとしよう。
さっき、田島をけしかけた上でコートにひとり置き去りにしてきた。さすがにそろそろ引き揚げてくるだろうが、田島が桜井を爽やかに脅すに至るまでのやりとりを聞いてしまった以上、彼女を、今、田島に会わせたくはなかった。
もしかしたら、何か少しは心を決めたかもしれない田島に。
うちの大切なマネージャーを。
無駄に傷付く必要はないんだ。誰だって。
生きているだけで、誰しもどこかしら痛むのだから。
「もう帰ろう」
そう言って、渋る桜井を強引に部室から連れ出した。
鍵を返すだとかそんな些細な役目を、年中無休で律義に守らなくたって別に構わないんだ。俺は彼女の、そういう生真面目な部分を大方好ましいと思うけれど、たまに心配になる。
グランドに目をやると、まっすぐ横切ってくる田島が見えた。
桜井から田島が見えないような位置をとって、促すように部室棟を裏手に回った。わざとこの道を選んだことに、桜井が気付かなければいいなと思ったけれど、さすがにそれは、無理だったかもしれない。
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