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桜井の視線が相川から外れないのを見て、仕方なく俺は桜井の肩を叩く。 俺の気持ちのありかがどこにあるかは分からなくても、それでも、嫉妬とか執着とか、そんな負の感情のさなかには、長くなんていないほうがいいんだ。 「俺は今日はお好み焼きの気分なんですけど」 振り返った桜井の表情がみごとに抜け落ちていて、俺は目を伏せたくなった。 だけどなんだかやたらに不安になって、ぼんやりと見返す桜井の目にひかりが戻って、うんいいよ、と、小さく答えるまで、じっとじっと見つめてしまった。 「いこう」 そういった彼女は、儚くて、でもしたたかで、俺はつい、柄にもなく目をみはり、労るように笑いかけていた。 でもこれは、恋愛感情なんかじゃないんだろうな。 桜井とか、田島とか、見ていてそう思う。 それは俺にはいまだに欠落しているような気がする。もっときっと、まっすぐに求める感情なんだ。誰かの存在を。純粋に。 それが俺には欠けているんだ、というよりも、まだ。 見つかっていないんだろうな。 駅の方向に走りだす。ちりちりとかすかに、チェーンが回る音を聞く。 聞き慣れた自分の自転 車の音のほかに、よく似た知らない音が被さる。桜井がちゃんと、ついてきているのだろう。 ほんの少し暗くなってきたから前輪の横を蹴ってライトを付けると、つられたように後ろからがしゃん、と、同じように前輪を蹴ったような音がした。
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