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弱々しい自転車のライトが、薄っすらと周囲を照らす。
ふたつ、重なった部分だけが、いっそう明るく透き通る。
それはどこか、未来を切り開く鮮やかなイメージで。
一人では霞んだままの世界が、もしかして誰かと一緒なら、嘘みたいに開けていくんじゃないのか?
なんてな。
冗談紛れに想像してみる。
それはなんて優しくて、なんて難しい条件だろう。
——あー……まじで、誰か、いないかな……
高校時代なんて、彼女がいるかいないかで雲泥の差なんだよ、ほんとに。
自分以外の誰かを、それほど強く思えるなんて。
すごい、幸運だって思わないか?
下世話だなぁ狩野はって、田島は笑うかも知れないけれど。
こんな不安定で中身のない俺に、田島は何を託そうというのだろう。
あいつは俺のことを、何故なんだかひどく買被っているんだ。
伸び上がるように上体を起こす。腕を伸ばしてハンドルに体重をかけて、そのままペダルに立ち上がる。坂でもないのに立ち漕ぎをすると、スピードがあがってTシャツがはためく。
——あーー……いーい、風
このまま紛れてしまいたい。些細な自分も、他愛ない鬱屈もすべて。
このまま溶けてしまえばいいのに。
強く風がふくと時々、そんなことを考える。時々。ほんの時々だけれど。
後ろから弱い光が遠ざかって不意に暗くなって、一瞬桜井を忘れていたことに気付いた。
うっかり引き離してしまった。
慌てて速度をおとし、距離がつまるのを待ってまた足に力を込める。
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