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そういえば言ってなかったけど、お好み焼き屋は駅よりさらに向こうで、まだちょっと結構遠いいんだけど、別にいいよな?かわりに安いし、かなり旨いからさ。
ほんの少しまだ、一人にはなりたくないのだ、ということを認めるのは。なんだか崩れていきそうで怖かったけど。
——桜井もそうだといいな
ほんの、少しだけでも。
誰かと感情を共有したいなんて、そんなのなんだか変だよな、と、思いながらまっすぐ自転車走らせた。
共有なんて、そんなこと、まともに叶うはずもないのに。
俺は何を探しているのか。何が足りなくてこんなに危ういというのか。
分からないままで、強くペダルを踏み込んだ。顔に、胸に、ぶつかる風の抵抗を感じる。
いっそ吹き抜けてしまえばいいのに。
薄暗い夕闇の中、弱々しいライトが懸命に道を照らす。
かすかに明るく重なり合った場所ばかり見つめながら、ちりちりと小さく鳴り続ける二つの音を、ずっと聞いていた。
その音は、不思議と心地よく耳に響いて。
静かに、真っ直ぐ深く届くようで。
そっと、耳を澄ます。
ずっと、絶え間なく響いてくれればいい。
ただ、軽くささやかなその音が。
俺の、平らかで滑らかでまるで掴み所ないこころの表面に、何かかけがえのない綺麗な模様を、刻み付けてくれるような、そんな気がしていた。
side狩野 Fin
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