16人が本棚に入れています
本棚に追加
2
「ばーか脅すな」
パシリと後頭部をはたかれた。
「貴重なマネージャーだぞ。来なくなっちゃったらどうするんだよ」
振り返ると狩野が、タオルを振り回しながら呆れた顔で立っていた。
「見てた?」
「見てたよ。お前が優しげな顔で呼び止めるのも、凶悪な笑顔で脅すのも一部始終」
「脅してねぇよ」
どーだかねぇ……狩野はつぶやきながら隣にやってくると、どさっと地べたに座り込む。それに倣って俺も、コートに足を投げ出した。
「何が不満なの、桜井の」
「別に」
「そんなことばっかやってると、お前、部内で反感かうよ?」
「分かってるよ。分かってるけどさ」
分かっているだけでどうしようもない事なんて、世の中腐るほどたくさんある。沢山あって、どれも陳腐で、いい訳すらめんどくさいと思うのに、狩野は黙って先を促した。
「桜井にはさ、もっと、真っ直ぐまともな奴が似合うと思わねぇ?俺なんかじゃなくってさ」
「なんだそれ。どんなの」
「2組の、槙野みたいなんとか」
「槙野?だってあいつ彼女いるだろう、相当有名な」
「うん。だけど、とにかく、俺なんか見ないほうがいいんだよ」
もっと綺麗で、正しくて明るくて。そういうものばかり見ていてくれればいいと思う。
そして、できることなら。
ずっと綺麗なままでいてくれればいいと思う。
そういう道を選んでもいいはずだ、桜井は。
最初のコメントを投稿しよう!