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「ばーか脅すな」 パシリと後頭部をはたかれた。 「貴重なマネージャーだぞ。来なくなっちゃったらどうするんだよ」 振り返ると狩野(かりの)が、タオルを振り回しながら呆れた顔で立っていた。 「見てた?」 「見てたよ。お前が優しげな顔で呼び止めるのも、凶悪な笑顔で脅すのも一部始終」 「脅してねぇよ」 どーだかねぇ……狩野はつぶやきながら隣にやってくると、どさっと地べたに座り込む。それに倣って俺も、コートに足を投げ出した。 「何が不満なの、桜井の」 「別に」 「そんなことばっかやってると、お前、部内で反感かうよ?」 「分かってるよ。分かってるけどさ」 分かっているだけでどうしようもない事なんて、世の中腐るほどたくさんある。沢山あって、どれも陳腐で、いい訳すらめんどくさいと思うのに、狩野は黙って先を促した。 「桜井にはさ、もっと、真っ直ぐまともな奴が似合うと思わねぇ?俺なんかじゃなくってさ」 「なんだそれ。どんなの」 「2組の、槙野(まきの)みたいなんとか」 「槙野?だってあいつ彼女いるだろう、相当有名な」 「うん。だけど、とにかく、俺なんか見ないほうがいいんだよ」 もっと綺麗で、正しくて明るくて。そういうものばかり見ていてくれればいいと思う。 そして、できることなら。 ずっと綺麗なままでいてくれればいいと思う。 そういう道を選んでもいいはずだ、桜井は。
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