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「俺にしてみたらお前だって、相当潔癖だと思うけどな」
そう不思議そうに言う狩野の言葉のほうが、俺にはよっぽど不思議だった。
「どこがー?」
「俺だったら付き合うなー、桜井だったら。だってお前、高校時代なんて、彼女いるかいないかで雲泥の差だぜ?充実度」
「充実度ってなんだよ」
「なんやかんや様々」
「下世話だなぁ狩野は」
「どっちがだ。なに想像してんだ」
狩野が笑う。低く抑えの効いた感情も会話もひどく居心地が良くて、だから俺はこの友人を好きだと思う。
いい奴だ、狩野は。
そうだ、狩野だっていい。
狩野ならきっと桜井の真っ直ぐな部分を、しっかりと守ってくれるだろう。
「あ……あれ」
目を上げると、狩野がテニスコートに隣接したグラウンドの、遠い端を指差していた。
「ああ……」
「ほんっとに、きれーに走るなー。相川は」
「だろ?」
「だから目が離せないってか?」
狩野がにやにやと笑う。
なんだ。こいつにもばればれなのか。
なーんだ、俺、相当間抜けじゃん。
からかうような軽い調子で、でもきっと心配されてるんだろうなと思う。
狩野のこういう優しさはいつも身に染みて、そしてなんだか申し訳ない気分になる。
俺なんてはまったく、心配してもらえるほどの価値なんてない気がする。
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