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「俺だってさ、桜井はいいと思うよ。もしかして今が数年後とかだったら付き合うかもしれないけど」
だけど、そういいながら、自然と目だけは相川の姿を追っている。
そんな自分が、我ながら、とことんしょうもない奴だと、分かってはいるけど。
例えばもうあと何年か経ったら、どうなるかなんて分からないけど。
だけど今はまだ、あいつがまだ目の届く範囲にいるから。
いつかきっと、届かなくなるだろう事は分かっているから。
だから今はまだ……
「お前と相川って、なんだっけ」
「腐れ縁、ただの」
「告白は?」
「してないよ」
今までも。たぶん、これからも。
俺は出来るだけ長く、あいつのそばにいたいと思う。
ただの安全パイでも構わないから。
できるだけ長く見ていたいと思う。
空気のような存在でも構わないから。
「なんだか痛々しいねぇ」
狩野は笑って、コートにごろりと寝転がった。
まだ空に残る日差しが眩しいのか、タオルに隠された表情は見えないけれど。
俺は片膝を抱えたままずっと、遠くを走る相川を見ていた。
なめらかに無駄のない動きは、音もなく吹きぬける風みたいだ、と。
いつもと同じように、思っていた。
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