1/3
前へ
/35ページ
次へ

「気まずくなったらお前が辞めろよな」 タオルの下から、狩野が唐突に言った。 「うわ。ひでぇ」 「当たり前だろう?桜井を辞めさせたら承知しねぇからな」 「分かってるよ」 桜井はしっかりしたいい奴だから、きっと辞めたりはしないでくれるだろう。だから俺も、部から追い出される事はないだろう。 俺はまだ狩野やみんなと一緒にいることができるだろう。 そのことに、溜息をつくように安堵する。 一人にはなりたくない。 唯一絶対の存在を、俺はきっと手に入れることは出来ないから。 確固たる居場所が欲しい。 無条件で許される場所が。 そんなことを考える俺はやっぱり、偽善者なのだろう。 「狩野ってもしかして、桜井が好きなの?」 「桜井の事はみんな好きだろ?」 「そうかな」 「そうだろ?気がきく上に仕事も早いマネージャー。申し分ない」 「だよなぁ」 「あいつがいなかったらって、考えただけでぞっとする。まず間違いなく部室にゴキブリがわく」 「ああ……確かに……」 「みんな、桜井の事は頼りにしてる。信用してる。みんな好きだよ」 狩野の言うとおりだ、と思う。 桜井は本当に、マネージャーとしては申し分ない。だけじゃなく。 普通の同級生としても結構申し分ない。 俺だって。 好きか嫌いかって二択で聞かれたら好きだと言うだろう。 嫌いなわけはないんだ。ただ。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加