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「気まずくなったらお前が辞めろよな」
タオルの下から、狩野が唐突に言った。
「うわ。ひでぇ」
「当たり前だろう?桜井を辞めさせたら承知しねぇからな」
「分かってるよ」
桜井はしっかりしたいい奴だから、きっと辞めたりはしないでくれるだろう。だから俺も、部から追い出される事はないだろう。
俺はまだ狩野やみんなと一緒にいることができるだろう。
そのことに、溜息をつくように安堵する。
一人にはなりたくない。
唯一絶対の存在を、俺はきっと手に入れることは出来ないから。
確固たる居場所が欲しい。
無条件で許される場所が。
そんなことを考える俺はやっぱり、偽善者なのだろう。
「狩野ってもしかして、桜井が好きなの?」
「桜井の事はみんな好きだろ?」
「そうかな」
「そうだろ?気がきく上に仕事も早いマネージャー。申し分ない」
「だよなぁ」
「あいつがいなかったらって、考えただけでぞっとする。まず間違いなく部室にゴキブリがわく」
「ああ……確かに……」
「みんな、桜井の事は頼りにしてる。信用してる。みんな好きだよ」
狩野の言うとおりだ、と思う。
桜井は本当に、マネージャーとしては申し分ない。だけじゃなく。
普通の同級生としても結構申し分ない。
俺だって。
好きか嫌いかって二択で聞かれたら好きだと言うだろう。
嫌いなわけはないんだ。ただ。
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