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枝豆と夕立
さっきまでうっとおしいぐらいに強い日差しが降り注いでいたのに、急に暗い雲が立ち込めてきたから、蒼子は急いで枝豆を茹で上げた。今年はもう三十五になるというのに、蒼子は実家に居たきりで、しかも自由気ままに台所も食材も使う。母親に小言を言われていたときもあったが、もう諦めたのか、最近はなにも言われなくなった。
冷凍庫できんきんに冷やしたグラスとビール、粗塩を振った枝豆とチー鱈をお盆に乗せて、二階の自室に運ぶ。デスクの上にお盆を置くと、自分もデスクに上がり込んで(かつて学習机として使っていたデスクはとても頑丈なのだ)あぐらをかいて窓の外を眺める。全開にしてある窓から、むしっとする雨の匂いが入ってくる。窓の桟に飼い猫のあにゃはもうスタンバっている。
「間に合ったね。そろそろ始まるかな」
蒼子は猫に話しかける。言い終わるや否や、ばらばらばらっと音がして、大粒の雨が降り出した。雨雲は蒼子の見える世界すべてを覆い尽くして、巨大な空に大胆に稲妻を描き、雷鳴を轟かせる。
「フー! かっこいー!」
チー鱈をしゃぶりながら、蒼子ははしゃぐ。あにゃは目を丸くして、窓の外を注視している。蒼子はまるでショーでも見るように、つまみを用意して、夕立という天空の大スペクタクルを楽しむつもりなのだ。
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