2/4
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
 後々、冷静になって考えてみたら、彼女はシャッターに落書きされた女性の似顔絵と酷似していた。  あの似顔絵はもう、消されてしまったが、男の頭の中にはその絵が鮮明に残っていた。  予告殺人?そんな映画みたいな話が現実にあるのだろうか?しかし、連日報道される被害者の写真がシャッターの似顔絵と、どうしても被ってしまうのだ。  そのうちに被害者が夢の中に出てきて、シャッターに描かれていたのは、わたしなのと切実に訴えてくるようになった。その度に眠りから覚め、寝汗をたっぷりとかいた。  おそらく、シャッターの似顔絵の女性は被害者に間違いない。男はいつの間にか確信を得た。すると、落書きをした人間を割り出せば、犯人か、もしくは殺人に関わりのある人間になる。被害者の無念を思うと、やはり、警察に証言する方が得策だろう。  事件から数日経って、男は警察に出向いた。警察は容疑者を絞り込めていないらしく、頭を抱えていた。そこへ容疑者を特定できる重要な情報を運んで来たのだから、警察は色めき立った。  しかし、男の証言はあまりにも信ぴょう性に欠けた。実際に落書きの存在を証明することはできない。そして記憶しているという証言だけでは警察は動けない。落書きを見たのは数日前。記憶がぼやけている間に、事件の被害者の写真を見て、記憶がすり替わった可能性も捨てきれない。  逆に男は警察からおまえさんが真犯人で、あたかも犯人は別にいると思わせるカムフラージュをしているのではないかと、疑いの目を向けられた。  男は善良な市民から、謂れのない冤罪者に成り変わろうとしていることに焦りを覚えた。あまり出しゃばりすぎると、とんでもないしっぺ返しを受けると思って、これ以上、首を突っ込むのをやめた。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!