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 しかし、事件は序章に過ぎなかった。男の店から数キロ離れたプレハブ小屋のドアにまたしても、スプレー缶による女性の落書きが発見された。  そして、その落書きの女性は犯人によって、惨殺された。今回は落書きが消されなかったので、警察は今頃になって、男の証言が正しかったと理解したのだ。  これは同一犯による連続殺人事件だと結論付けた。動機は不明。サイコパスによる犯行は濃厚だった。  日本でも時々、話題になるサイコパス。そんな人間は男の周りにはいなかった。だが、そのような種類の人間が実際にいるのだとしたら、男が関わってしまった事件は、まさしくサイコパスの仕業だ。  そんなことを考えていると、空恐ろしくなって、仕事にも集中できない。  カウンターでグラスを磨いているときに、ドアが鐘を鳴らして開く度に、サイコパスが目の前に現れたんじゃないかと思い、戦慄する。  いつか、世間では似顔絵の落書きの女性が被害者になることから、イギリスで頻繁に登場する覆面画家、バンクシーの名前をとって、日本版バンクシー殺人事件と銘打たれた。  男の店は最初の犠牲者の落書きをされた店だとSNS上でバズり、ありがたいことに来客数が増えた。左巻きだった店がバンクシー殺人事件の犯人のおかげで皮肉にも、息を吹き返した。  客の大半は、そのサイコパスが店に現れるじゃないかと、淡い期待をして訪れる。男は悟った。冷やかし半分の客で持っているような店は、さっさと閉店すべきなのかもしれないと。  
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