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「本日は○○小学校で、美術についての講演があります。その後、教育委員会との会食があります...」  執務室のデスクで目を瞑りながら、我慢強く秘書の御岳雅美のスケジュールを聴きながら、猪俣幸三は時々、あくびをかみ殺していた。  まるで、つまらない授業に耳を傾けている小学生のようだった。 「御岳くん、もうちょっと、抑揚をつけた話し言葉を使えないものかね?」  いつものように猪俣の注文が入る。御岳雅美はまたかという顔をするが、すぐに笑顔に戻り、以後、気を付けますと言って、襟を正した。  重箱の隅をつつくような性格の持ち主である猪俣には、かつて四人の秘書がいたらしい。彼女たちは一年と持たず辞めてしまった。その度に猪俣は新しい秘書を雇うのだが、賞味一年が精いっぱいで、その度に変わるものだから、なかなか意思の疎通が図れず、猪俣は仕事にも支障を来たすことになった。  効率が悪くなれば、猪俣のストレスも増え、そのイライラの捌け口が秘書になるので、自然と秘書は辞めていく。こういった悪循環が続いていくことになる。  だが、秘書が辞めていく理由はそれだけではなかった。猪俣は手が早いのだ。秘書を雇い入れるための面接でも、自ら率先して面接を行い、仕事には関係のない質問をする。彼氏はいるのか?どんな男性がタイプか?もし、ヌードモデルになれと言われたら、素直に応じるか?
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