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 その質問は一歩間違えればセクハラに抵触する。なにより、その質問をされると決まって彼女たちは嫌な顔をする。当たり前だ。雅美だって始めは面食らった。  もちろん、始めは嫌な顔を作ったが、質問には我慢して答えた。雅美はこのとき、なんとしてでも通らなければならなかった。絵画の世界では、猪俣のお眼鏡に適えば、画家としての道が開けるのだ。  都内の美術大学を卒業した雅美は、父親が画家だったこともあり、物心つく頃には漠然と画家になるものばかりと思っていた。  美大に在籍していた頃は、雅美も数々の小規模な賞をとっていたが、それらの実績はほんのちょっとの箔がついたに過ぎなかった。  ただ、絵を描ける環境にいることが、雅美には心地よかった。そこに身を置けるだけで雅美は満足だった。  雅美の父親はそんな娘の、腰掛け程度の考えに不甲斐なさを覚えていた。  雅美は本来なら国立の芸術大学に進学を決めるように、父親から言われていたが、雅美は父親の期待に応えらえず、私立の美大に留まった。それが直接の原因かどうかはわからないが、父親は雅美の絵に関して、辛く当たるようになった。  雅美の描く絵に、事あるごとに注文をつける父親を、雅美は避けるようになった。もともと、父子間の関係は小さい頃から良くはなかった。  父親から可愛がられるようなことをしてもらった記憶はなかった。だから、雅美は何か悩み事があると、母親に相談した。  その母親は雅美に、本当にやりたいことをやりなさいと、言ってくれた。母親は父親の周りで甲斐甲斐しく、世話をしていた。母親にとってその生活は、不本意かどうかはわからない。だが、母親なりに自分が望んだ生き方だと言い聞かせていたのだろう。
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