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 小鳥遊は石原能弘の身辺調査を任された。石原犯人説は小鳥遊と一致していた。ただ、第四の事件は、石原能弘には確固たるアリバイがあった。誰かに殺人をやむなく依頼した可能性は僅かながらあった。  それらを差し引いても、石原犯人説は二人の間では揺るがなかった。  小鳥遊は石原が社長を務める石原不動産へ向かった。銀座にある6階建てのペンシルビルが本社だった。  社長室に通された小鳥遊は、部長を待っている間、八畳はある室内を見回した。わたしの部屋よりも広いので、ショックを受けた。  壁に一枚の絵がかけられていた。絵というよりもイラストのように感じた。  よく見ると、小鳥遊はその絵がバンクシーの初期の作品であることがわかった。一匹の猿がプラカードのようなものを首から提げて佇んでいる絵。  そのプラカードに英語文字が書かれていたが、小鳥遊にはわからなかった。とにかく、バンクシーが最初に描いた絵であることは間違いなかった。小鳥遊はバンクシーについても勉強していた。もしかして、今回の事件はバンクシーを信奉している人間の犯行かもしれないと思ったからだ。  絵の前に佇んでいると、部長が社長室に入ってきた。  部長は明らかに石原よりも年上で神経質そうな顔をしていた。身体の線も細く、スーツがそのまま動いているように見える。 「部長の神崎です。石原社長について、警察が何か?」  神崎はソファを小鳥遊に勧めた。小鳥遊は恐る恐る座る。 「二週間前に社長の石原さんはジョギング中に崖から転落して事故に遭われました。その際、頭を強打して記憶を喪いました。部長さんとしても会社の業務に支障が出るので、お困りでしょう」
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