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 当たり障りなく、小鳥遊が口を開く。 「それはもちろんですが、焦らず、ゆっくりと社長には休んでもらい、記憶を思い出すことを願ってます。だから、今はなるべくそっとさせています。ええ。社長が崖から転落するなんて信じられませんでした。あの運動神経がいい社長に限ってそんなことがって思いました」 「社長さんは運動神経がよかったんですね。現場検証しましたが、あの辺は外灯が少なくて、とても暗いですね」 「確かに、あの辺は夜になると暗いし、危ないです。ですが、社長はあの辺をかれこれ、十年もジョギングコースにしています。社長にとっては慣れたコースです。だから、崖から転落するなんて...」  ならば、石原は自分を護るために敢えて崖から転落したというのか? 「あの、社長さんはバンクシーが好きなんですか?」 「ああ、あの絵ですか」  神崎は壁の「ラフナウ」を見上げ、相槌を打つ。 「社長さんは美術に興味があったんですか?」 「ええ。やはり、取引先の社長さんなんか、美術に造詣が深い方が多いので、仕事を円滑に進めるために美術を勉強しておりました。おそらく今、ホットな芸術家といえば、バンクシーですから。社長は新しもの好きでしたから」 「なるほど。あの、社長さんはスプレー缶なんて購入したことはありませんか?ほら、落書きをする際に噴霧するスプレー缶です」 「ほほう。社長は殺人事件の容疑者ですか」  露骨に神崎は嫌な表情をした。 「すみません。被害者の落書きがあった場所の近くにおりましたので...」  小鳥遊は平謝りをした。神崎ははっきりと言い放った。 「社長はスプレー缶なんて買いません。それから落書きなんて致しません!」
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