25

3/3

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
 美術館に関係者であることを伝え、能弘とともに1号棟の地下倉庫へ向かった。  歩きながら、雅美は鍵を開け、所定の棚に向かい、カンバスを能弘とともに持ち上げる。その瞬間、はらりと画布がとれた。 「どうかしら?何か思い出したかしら?」  能弘は浮かない顔をして首を振った。  その後、雅美は能弘を連れだって、遊歩道を歩く。確か、途中でたぬきが現れて、不覚にも雅美は能弘に抱きついてしまった。あのときのことを思うと、自然と胸が高鳴る。  さすがに今日は観光客が多いので、たぬきが出現することは期待できそうになかった。しばらく歩きながら、雅美はカバンから赤い革の手帳を取り出した。 「あ、その手帳」  能弘が言った。 「見覚え、あるんですか?」 「それ、えっと、病院で...」 「疑問だったんですけど、石原さん、どうして病院に?」  能弘は突然、金縛りにあったように全身の動きを止めた。何かを思い出したのだろうか? 「あのう、大丈夫ですか?」  能弘は突如、全身を震わせ、膝をついて地面に手をつき、四つん這いになった。  雅美はしゃがみこみ、大丈夫ですか?と訊きながら、能弘の背中をさすった。  能弘は怯えた子どもように丸くなった背中を震わせた。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加