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美術館に関係者であることを伝え、能弘とともに1号棟の地下倉庫へ向かった。
歩きながら、雅美は鍵を開け、所定の棚に向かい、カンバスを能弘とともに持ち上げる。その瞬間、はらりと画布がとれた。
「どうかしら?何か思い出したかしら?」
能弘は浮かない顔をして首を振った。
その後、雅美は能弘を連れだって、遊歩道を歩く。確か、途中でたぬきが現れて、不覚にも雅美は能弘に抱きついてしまった。あのときのことを思うと、自然と胸が高鳴る。
さすがに今日は観光客が多いので、たぬきが出現することは期待できそうになかった。しばらく歩きながら、雅美はカバンから赤い革の手帳を取り出した。
「あ、その手帳」
能弘が言った。
「見覚え、あるんですか?」
「それ、えっと、病院で...」
「疑問だったんですけど、石原さん、どうして病院に?」
能弘は突然、金縛りにあったように全身の動きを止めた。何かを思い出したのだろうか?
「あのう、大丈夫ですか?」
能弘は突如、全身を震わせ、膝をついて地面に手をつき、四つん這いになった。
雅美はしゃがみこみ、大丈夫ですか?と訊きながら、能弘の背中をさすった。
能弘は怯えた子どもように丸くなった背中を震わせた。
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