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「はい。確かに九月十五日の午前十時に外来で訪ねてきています」
張本は病院の受付カウンターで聞き込み捜査をしていた。今回は相棒はいなかった。張本は刑事の勘で動いていた。論理的な行動をする小鳥遊を説得するのは難しかった。だが、張本は単独行動に踏み切った。
「外来の理由はわかりますか?」
「はい。右手首のねん挫ですね。一応、レントゲンも撮っているようです」
「ありがとうございます」
張本は踵を返すと、ガッツポーズをするのを堪えた。
ビンゴだった。石原能弘は右手首を怪我した。小野という男にスプレー缶で似顔絵描くように指示した日が、その三日後、三人目の犠牲者が出たのはその五日後だ。
バンクシーを騙っていた殺人者が外部の人間にイラストを依頼する。そこには止むに止まれぬ事情があった。その事情が怪我だとしたら、一連の犯人の行動に辻褄が合う。
張本は小鳥遊に連絡をしたが、小鳥遊の携帯は留守電に切り替わった。
「別れてほしい」
小鳥遊は逸郎とホテルにいた。互いに抱き合った後、唐突に逸郎が言った。あまりの突然のことに、小鳥遊は二の句が継げなかった。
「どうしたの?別れるなんて...」
「わかってるんだろう。俺が四人目をやったってこと」
小鳥遊は黙った。逸郎はベッドから出ると、服を着始めた。背中が寂しそうだった。
「どうして、俺のこと、警察に話さなかった?」
「それは...逸郎さんは人殺しなんてできない。わたしは信じないから...」
「刑事失格だな。目の前に犯人がいるっていうのに」
「じゃあ、三人目までの犠牲者はあなたじゃないでしょう」
「でも、一人殺している」
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