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「あの、石原という男に命令されたの?脅迫されたの?」
「いいや。俺の意志だ」
そのとき、小鳥遊のスマホが鳴った。見ると張本からだった。今日はわたしは非番だと言ったのに、プライベートなんてお構いなしだ。
「出なくていいのか?」
「いいの。わたしは今日は刑事じゃないから」
小鳥遊は時々、自分がわからなくなる。好きな男といると、冷静な判断ができなくなる。
スマホの着信音が止まる。
「ここはいい機会だから、俺の生い立ちについて話そうと思う。俺の母親は画家を目指していたらしい。フランスに留学していたときに画家志望の男と出会って、俺を妊娠してしまったそうだ。そして、俺は私生児となって生まれた。俺はそれから母親の親戚筋に預けられた。俺の父親は有名な画家になったらしい。まあ、幸か不幸か、俺は父親の遺伝子を受け継いでしまったらしく、絵だけは格段に上手かった。でも、俺は画家になる気はなかった。だから、俺には両親なんていないんだ」
逸郎は寂し気に微笑んだ。
「ありがとう。話してくれて。わたし、刑事に向いていないかもしれない」
「あの日、石原を追いかけて、石原を捕まえたんだ。そのとき、石原という男から言われたんだ。似顔絵を描いた女は不倫をしているって。彼の母親も不倫をして家を出たそうだ。唇の下にホクロがあったらしい。だから、彼はそういった女を成敗しているんだと。俺の目を見て、彼は自分と同じ目をしていると言った。そして、石原は突然、崖から飛び降りたんだ。そのとき、彼から教えられた女を彼の代わりに殺さなければならないと思った。それは俺の使命だと思った」
「そんなに自分を責めないで」
小鳥遊は逸郎の背中越しに抱きついた。
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