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怒り顔をだんだん冷やかしの表情に変えてとんでもないことを言い出すこころを引き止めるために 「そんだけ頑張ってるってことやろ。中学の時からそうやったで」 と小声で伝えると 「そうなん?……って真面目か、野垣」 変な突っ込みを入れてからやっとこころの暴走が止まった。 二年生で私達と同じクラスになった男子バスケ部の“野垣 光哉(のがき みつや)くん”。 私と同中(中学校)で、こころの言う通り真面目を絵に描いたように部活に取り組む姿は中学校の時から見てきた。坊主頭だった髪型がスポーツ刈りになったことと背がグンと伸びたこと以外は何にも変わってない。あまり話したことはないけれど、無愛想に感じる雰囲気も決して悪気がある訳じゃなくて……。 ドリブル練習を終えて今度は一心にシュート練習に打ち込む背中を眺めながらただ、“ほんまにバスケが好きなんやろな”と思う。私と同じことを感じたようにこころもそれ以上喋り出すことはせず、軽くパスボールを放ってきた。 一年生の終わり頃からこころと始めた朝練はできる限り、毎日続けている。きっかけは“口だけの先輩を実力で負かしたい”というこころの恐ろしい提案だったけれど、朝の誰もいない神聖な空気の中ずっと続けたことで、バレーボールに対する思いが変わってきた。怒られてばかりの練習が早く終わることをいつも考えていたけれど、今はトスやサーブの練習一つ一つが全部試合に繋がっているような気がする。こころだってその内に先輩への不満なんて口にしなくなり、黙々と単調な練習を繰り返すようになったんだ。
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