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由香奈が心を揺らしていると、クレアがぽんと彼女の肩に手を置いた。
「あたしはさ、由香奈。コンプレックスのせいでおしゃれができないのはおかしいと思う」
「そういうわけじゃ。肌を出すのは嫌いだし」
「やってみなくちゃわかんないじゃん。えーわたしなんかぁって言いながら内心ノリノリでコスプレする子って多いんだから」
「そ、そういう問題……?」
「そーゆー問題! やってみよう! さあ行くよ」
「どこに」
「由香奈には強い味方がいるでしょう」
ばちんとウィンクしてクレアは由香奈の手を引く。向かったのはミチルさんの店だった。
ブライダル用の補正下着が専門だと言いつつ、クレアと由香奈にオーダーメイドの下着を格安で作ってくれたミチルさんは、口は悪いが優しい人だ。それぞれの体形の悩みに合わせてくれるので、クレアが由香奈に紹介してくれたように口コミで来店するお客が多いようだ。
「水着ねぇ」
クレアが差し入れた缶の緑茶を飲みながら、ミチルさんはめんどくさそうに嘆息した。マガジンラックにあったファッション水着のカタログをめくっていたクレアが「こんなのどう?」と由香奈に示す。布面積が極端に少ないそれに由香奈は無理無理と首を横に振る。
「由香奈みたいにさ、大きい子は逆に出しちゃった方がいいんだって。隠すと逆効果。だよね、ミチルさん」
「それはキヨコの言う通りだけど」
「キヨコって言うなっ」
クレアの抗議を綺麗に無視して、ミチルさんは首から下げていた眼鏡をかけてカタログを眺めた。
「肉量を気にしてる娘ほど隠そうとしてワンピースタイプを選んだりするだろ、あんなのはダメ。はっきり体のラインが出るんだから、ボディスーツで外を歩くようなもん」
「うげげ」
「セパレートで目線も分散させるのが正解。で、あんたは胸はでかいが尻は小さいから既製品じゃとても合わないよ」
「なるほど」
ミチルさんの解説にはいつも納得させられる。
「じゃあ、こんなの?」
横からクレアが指差したのは、バスト部分が段々フリルのビキニだ。
「それはむしろ小さい娘の最終兵器だろ。この子じゃ余計に膨張して見えるだけ」
「むー」
「谷間を隠すってなら、ハイネック型やタンクトップ型もあるけど、ほら、金太郎の腹掛けみたいだろ」
「可愛くない! もっと水着っぽさがないと」
「だろ。というわけで、定番の三角ビキニがいちばんだね。カップ部分をカシュクールで覆って寄せて、ホルターネックで支える」
「おお、良さそう! ね、由香奈」
「でも、これ……」
「谷間が気になる? それは何度も言うけど、布地で覆ってもくぼみができて逆にいやらしく見えるだけだ」
「そうそう。恥ずかしがらずに堂々と見せればいいんだよ、堂々と」
それって犯罪じゃあ、という由香奈の小さなつぶやきは綺麗に黙殺されたのだった。
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