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「おねえちゃん。だいじょうぶ?」
不健康な思案に陥っていた由香奈を引き上げてくれたのは、か細く可愛らしい声だった。砂山作りに夢中になっていた女の子が、由香奈の傍らに立って、自分がかぶっていた麦わら帽子を由香奈の頭に乗せた。
「おぼーし、かぶらないとだめなんだよ」
炎天下でダラダラ汗を流していた由香奈を心配してくれたようだ。
「あ、ありがとう」
女の子は麦わら帽子の下にメッシュの水泳帽もかぶっていた。ピンク色で、白いマーガレットみたいなお花のアップリケがついているのが可愛い。じっと見入っていると、女の子ははにかんだ笑みを浮かべながら、またしゃがみこんで砂山をぽんぽんと叩き始めた。
「それで完成?」
「ううん。これからトンネルをほってみずをとおすの」
なるほど。誰もが夢中になる砂浜での遊びだ。女の子が小さな両手で砂地にくぼみを作り始める。
「手伝っていい?」
由香奈が声をかけると、女の子は今度は顔を上げてくれてこくこく頷いた。
海水を通すなら、と確認して、さっきよりも汀が遠ざかっているのに気が付いた。潮がどんどん引いているのだ。これは頑張らねば。
「それじゃあね、私のほうが手が大きいから、私が水路を掘るね」
「すいろ?」
「水を通す道」
まだ濡れて黒い砂をよいしょよいしょと掘り始める。海水を引いてしまえば水の力で抉られるに違いないと考え、とりあえず浅い筋を波打ち際まで引っぱる。
背中に風を感じる。ひときわ大きな波が寄せてきて砂をさらい、筋道はあっさりかき消されてしまった。もっと深く掘らないとだめなんだ。
由香奈は立ち上がり、かかとを使ってぐいぐいと砂地を抉ってみた。さっきより簡単に波際に至る。さぁっと海水が水路を通り、不格好に砂を崩しながらも砂山の近くに湖のような水溜まりができた。
あとはトンネルを開けてここから水を通せれば。由香奈は女の子と一緒に砂の上にぺたんと座り、彼女が一生懸命築いた砂山に慎重に穴を掘り始めた。山が崩れてしまわないよう固め直しながら慎重に。
その最中、いきなり女の子に言われた。
「おねえちゃんのおっぱいおおきいね」
ぎょっとした由香奈だったが、女の子は罪のない笑顔だ。
「ママのよりおおきい」
前屈みになって動いていたから、目の前で揺れているのが嫌でも目に入ったのだろう。
「ごめんね、恥ずかしいよね」
由香奈は砂だらけの手でホルターネックのリボンを押さえてカップの位置を上げる。
「はずかしいって、なにが?」
女の子はきょとんとなった。由香奈は咄嗟に答えることができない。
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