14/太ったゴブリン

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14/太ったゴブリン

「お、お助け──ぇぇ──!」  太ったゴブリンが俺の背中に駆け込んだ。 「丸腰の人間か、食ってやる!」  ゴブリンを狙っていたオークは、俺を目掛けて突進してきた。  魔物とは言え助けを求められたなら、助けない訳にはいかない。  シャルロットにアイコンをする。 「(うん!)」  シャルロットも頷いた。  助けよう!  オークの突進に対抗して俺も相撲を取るために突っ込んだ。 「馬鹿目! 俺達オークと生身でやろうってか!」  オークと俺の体が衝突する。 「な、なんだと〜!?」  オークは後ろにひっくり返った。 「こいつ人間か!? くそぉ!」  起き上がり今度は殴りかかってきた。  俺はその拳を片腕で受けて見せた。  ──間入れず、反対の拳が飛んでくる。  その拳に向かって頭突きを入れた。 「痛ぇーッ──!」  オークは、再びひっくり返る。 「どうなってんだ……、この人間……!?」 「ネックエクステンション、僧帽筋の鍛え方が違うのさ!」 「強化魔法かッ!?」  オークは困惑している。  魔物とはいえ喋れる魔物を殺すのは気分が悪いな。  ここは1つ交渉してみるか……。 「──おい! オーク!」 「な、なんだ人間!」 「このゴブリンを見逃すなら僕も君を見逃してあげる。どうする? まだやるか!?」 「ぬぬぬぬぬッ……」  オークは後退りをする。 「くそ! 覚えてろよ。ゴブリン!」 振り向き様に俺達を睨んでオークは立ち去った。 「ぶはぁ──!」  太ったゴブリンは大きく息を吐きへたり込む。 「た、助かったでゴブ。まさか冒険者様に助けてもらえるとは思ってなかったゴブ」 「き、君たち、魔物はしゃ、しゃべれるの!?」  俺は真っ先に疑問をぶつけた。 「皆が皆、喋ってるわけじゃないゴブよ。あのオークもオラも魔物の中でも進化した魔族に部類されるゴブ」  魔族……。なるほど、知性を持つと魔族に昇華するのか?  もしかしてあのキングトロルも知性を持っていたので進化したトロルだったのかもしれない。 「ほ、本当に、しゃ、しゃべるんだね……」  シャルロットは、少し距離をとってゴブリンを見ている。まるでお化け屋敷の入り口に立っているように、ビクビクしながら俺の背中越しで観察をしていた。 「申し遅れました。おらはゴブタといいます」  太ったゴブリンは立ち上がり丁寧にお辞儀をした。 「助けて下さって本当に感謝ですゴブ」 「あ、いやぁー。助けを求められたら助ける。当然の事だよ」 「本当に感謝ゴブ。それしても強い冒険者様だゴブ。オークに力比べで勝っちまうんだもん、オラびっくりしたゴブ」 「僕はエレイン」 「シャ、シャルロットです」 「どうもですゴブ」 「君はなぜオークに追いかけられていたんだい?」 「話せば長くなるゴブ──、実はこの辺り昔はキングトロル様が支配していたんだゴブ」  またキングトロルか……。 「キングトロル様は、森を守るために冒険者狩りをよくしていたゴブ」  冒険者狩りは自然保護の一環?  自然保護トロルだと? 「オラ達の里のゴブリンは人様を襲わない方針ゴブでこの辺りのオーク達とはあまり剃りが良くなかったゴブ」  ゴブリンなのに人を襲わないとは珍しい。 「この森の中にはオラ達ゴブリンの里とオークの里があって、キングトロル様がいた時はそれでもうまく納めてくれていたんだゴブ」  あ、あのトロルが!? 「でも3年前のある日、キングトロル様は亡くなってしまったんだゴブ」  俺達のが……。  シャルロットが、気まずそうに俯く。 「そしたらオーク族達が、オラ達にちょっかい出すようになって、いじめてくるようになったんだゴブ」 「そ、そうなんだ……」  あのキングトロルはこの辺では魔物のボスだったのか、襲われたから倒してしまった。  1万歩譲っても倒すしかなかったけど、ちょっと責任を感じてしまう……。 「最近では、この森の領土争いだと言って攻撃してくるようなったゴブ。でも、オラ達の里には弱いゴブリンと老いたゴブリンしかいないゴブ。やられるか、逃げるかしかないんだゴブ」  オークとゴブリンでは体格差があり過ぎる。 「他の里のゴブリンには、助けは望めないのかい?」 「──残念ながら。オラ達の里には掟があるゴブ」 「掟?」 「その昔、3代目の勇者に長老達が救われて以来、けして人間達には手を出さないっていう掟があって」  勇者が? 「だから他のゴブリン達からは反感を買っていて助けはこないんだゴブ」  なるほどな……。事情は大体わかった。  魔物にも人間に好意を持っている種族もいるのか、それに知識を持つタイプは魔物ではなく魔族となって意志の疎通が可能ときたか。 「それはそうとオラを助けてくれたお礼がしたいゴブ。こんな見ず知らずのゴブリンを助けてくれ御仁にお礼もできなかったら一族の恥だゴブ。里に寄っていって欲しいゴブ!」  罠……、では無さそうだな。 「どうしようか? シャルロット?」 「わ、私はどっちでもいいよ。エレインに任せる」    魔物の里なら、もしかしたらシャルロットの魔力をあげるヒントもあるかもしれないし、日暮れまでに森を抜けるのも厳しそうだ……。  ここは言葉に甘えよう。   「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよゴブタくん」 「良かったゴブ。断られたら3代目勇者にも顔向けできなかったゴブ」 「よろしくね」 「よ、よろしくお願いします」 「里はここからもう少し先にあるゴブ。ついて来てくださいゴブ!」 「了解」  そういえばポワールで物騒な話があったな。 「さっき噂で聞いたんだけど神獣? が出ると聞いたんだけど……」 「神獣……?」  ゴブタは少し考えこんだ。 「あぁ〝刹那の獅子〟ゴブね!」 「刹那の獅子?」 「あれは別格ゴブ。ちょっと前まではこの辺にいたゴブが、もうどっかに行ってしまったゴブ。長い間、同じとこには滞在しないみたいゴブね」    ──刹那の獅子。  覚えておこう。 「なんでもその毛皮はどんな刃も通さず、どんな魔法も跳ね返す程の硬さで1200年生きた神獣らしいゴブ」 「凄まじいね。それ」 「希少性の高い防具の素材として欲しがる人がわんさかいるゴブ」 「確かに凄い装備ができそうだ」 「でも、手を出すと死ぬ事になるゴブよ。歴代勇者様どころか魔王軍も手は出さなかったゴブからね」  勇者や魔王も? それは凄いな。  物理が効かないタイプ。出くわしたら厄介だ。  出会したら逃げる1択だな。 「もうちょいゴブ」  ゴブタの案内について行くと森の中に大きく拓けた場所に出た。 「ここがオラ達の里、ゴブリンの里だゴブ」 「おぉー」 「凄いよエレイン!」  魔物が人間みたいに生活している。  入り口には、石像が祀られていた。  鎧を着込んだ勇ましい青年が剣をもち前に突き出したポーズをしている。  石像の下を見ると【3代目勇者 ギリアス】と書いてあった。  これが3代目の勇者……。  魔物をも救った心優しい青年だったのだな。 「オラ達の恩人、ギリアス様だゴブ。里を案内するゴブ。まずは長老達に会って下さいゴブ!」 「え、あ、うん」  ゴブタは石像に手を合わせて俺達を里に招き入れた。  里の中に入ると設備は古代的だが人間さながらの村ように作られていた。  木や藁でそれぞれの家が作られていてゴブリン達が里の中を行き交っていた。 「信じられないッ!」  シャルロットは周りをキョロキョロとして目を輝かせていた。 「ま、まるで人間みたいだね!」    確かに……。  正直、驚いている  言語もさながらだけど人並の文化があり、分け与え、コミニュケーションをとり、商売までして発展している。 「見て見て! エレイン! お店まであるよ!」  屋台で出店で串焼きなど売っていたり、鍛冶屋まである。なるほど武装ができるのか……。  あのキングトロルが装備を施していた理由もわかる。 「ギリアス様パーティーに技術や文化を教わってここまで発展してきたんだゴブ」 「勇者が?」 「はいゴブ」  それにしても不思議だ。  殆どのゴブリン達のカロリーは5万前後なのに対してこの太ったゴブタは、何故30万カロリーをもっているのだろう……。  里を見渡してみてもこんな太ったゴブリンはゴブタくんだけだ。 「──冒険者様が、きたぞ」 「わぁ──、久しぶりの人間ゴブ」 「な、なんの用かな?」 「ゴブタが連れて来たのか?」 「どこに行くのかな?」 「あのエルフめっちゃ可愛い!」 「久しぶりのお客様だゴブ」  里の中は俺達を見てざわついている。  里の来訪者がとても珍しいみたいだ。 『この冒険者さまは、オークに襲われた見ず知らずのオラを助けてくれた恩人ゴブ! 皆、よくしてやって欲しいゴブ!!』  ゴブタは道の真ん中で、里の皆に向かって大声で叫んだ。 「うぁ──、恩人と聞いたら、もてなさなきゃなんね──!」 「急げ──、お祝いの支度ゴブ」  里のゴブリン達は歓迎をしてくれたようだ。 「──ゴブタぁぁ──!! だ、大丈夫か──ぁ!?」  遠くから別のゴブリンが走ってきた。 「はぁはぁ──、ケガはねぇかゴブタ? 大丈夫か?」 「大丈夫だゴブザエモン」 「本当かぁ!?」 「このエレイン様とシャルロット様に助けてもらったゴブ」 「このたびはゴブタを助けてくれて本当に感謝しますゴブ」  そういってゴブザエモンと呼ばれたゴブリンは、俺達に丁寧に頭を下げた。 【100,020/15,000】  このゴブザエモンと言われるゴブリンは、他のゴブリンよりもずいぶん仕上がった体型している。  タンパク質量も他のゴブリンより2倍くらいある。 「こちらはオラの親友のゴブザエモンですゴブ」 「よろしくね!」 「よろしくお願いしますゴブ」 「里1番のゴブリンだゴブ。この里はゴブザエモンが守ってるゴブ」  なるほど、里1番の戦士か……。  しかしオーク達のタンパク質量は5万超えは当たり前だ。何か人間達のように魔力か技がなければ到底太刀打ちはできないかもしれない。 「それじゃ、長老様んとこに行くからまたなゴブザエモン。さぁ、こっちが長老様の家だゴブ」  人間さながらの里の商店街をぬけて長老の家と呼ばれる家に案内された。  偉いゴブリンのわりにみなと同じ生活水準レベルの木と藁で敷き詰められた家だった。 「先にオラが説明をしてくるゴブ、ここで待ってて下さいゴブ」 「了解」 「……」  なんか緊張するな。 「魔物にも凄い発展してる文化があるんだね。いい魔物もいるんだね」 「知性がある魔物いる事に僕は衝撃を受けているよ」 「──さぁ、お待たせしました2人共。上がって下さいゴブ」  ゴブタが戻ってきた。  話は済んだようだ。  案内をされるままに俺達は長老の家に入っていった。 「「お邪魔します」」 「これは、これはゴブタが大変お世話になりました。ワシは、この里の長老をやっていますゴーブルと申します。どうぞ、適当にお上がり下さい」  中では長老と名乗る年老いたゴブリンが杖をついて待っていた。
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