再会

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再会

 指定された土曜日、お茶をしたいと言うので繁華街近くの駅で待ち合わせると、先に着いた陽が目敏くこちらを見つけて手を振った。白のショートパンツから伸びたすらりとした足と、サラリと音がしそうなほど健やかで真っすぐな長い髪。都会にいる自身より遥かに洗練された様子に圧倒されながら近づくと、陽は迷わず腕を伸ばして都を抱きしめた。 「みーちゃん、久しぶり。変わんないね」  変わらない、という率直な感想と昔ながらの呼び方に相反する想いを抱きながら、都は自分より背が高いながらも遥かに細い体におずおずと腕を回した。 「あはは……陽はすっかり綺麗になったね」 「本当? 昔の方が良かったって、がっかりされるかと思った。だって……」 「あー……それはまあ、知った時はびっくりしたけど。男の子でも女の子でも、陽は陽だよ」  長いこと引きずっていたのが嘘のように自然とそう言い切ると、ようやく心の中で決着がついたように都は笑った。つられるように陽も笑うと、体を離して手だけ繋いだ。 「じゃあ、行こうか。パンケーキ食べたい」 「あ、うん。えっと、荷物それだけ?」  肩から下げた赤い皮のバッグを指すと、陽は頷いた。 「うん、キャリーはホテルに置いて来た。邪魔だし」 「そっか……でも本当、家に泊まってくれて良かったのに。うちのお母さんだって、しつこいくらい勧めてくれたんだよ?」 「ううん、そこまで迷惑かけられないよ」 「迷惑だなんて」 残念そうに肩を落とす都に、陽は困ったように苦笑した。 「ありがと、みーちゃん。後でお家には寄らせてもらうから、もう行こ? 朝、果物しか食べてないからお腹空いちゃった」  改めて都の手を引くと、厚底のスニーカーを大きく踏み出して目当てのカフェに向かった。  時間が早かったせいか、待つことなくすんなり席に通された。都は苺とベリーのワッフル、陽はお目当てのマンゴーのスフレパンケーキを頼み、運ばれてきた品に二人とも歓声を上げ、目も胃袋も満たされた。互いに一口ずつ交換したり、学校での話をするうちに、離れていた時間がすんなり埋まって行くのを感じた。目の前の陽に恋心ではなく学校の友達以上の友諠を覚えながら、関係性が再構築されたところで、都は自分にとって最大の疑問を口にした。 「で、さ。今さらかも知れないけど、どうしてあの頃、陽は男の子の恰好してたの?」  すると陽は紅茶を一口飲んでから、カップを置いてこう答えた。 「お母さんの、趣味」 「趣味って、実は男の子が欲しかったとか?」 「んー、そうでもないみたい。ただあの頃の私、ああいう髪型や恰好すると、お母さんの昔好きだった人に似てたんだって。それで」 「私……」 「ん?」 「あ、いや、何でもない」  陽の一人称を思わず繰り返してしまった都は、あたふたしながら質問を続けた。 「陽自身はどうだったの? 自分のこと、男の子って思ってた?」 「うん。だってそう言われてたし。だから、みーちゃんがお嫁さんになるって言ってくれて……」 「! そ、それはもういいって!! 頼むから忘れて」 「何で? 嬉しかったけど。だから急に実は女の子ですって言われても、当時はすぐには切り替えられなかった。一番はスカートが恥ずかしくて。何かスース―して頼りないし、こんなんで外歩けないって泣いた」 「それはそれは……今はもう慣れた?」 「まあ、ラクだし。それに髪を伸ばし始めたら、可愛い恰好も満更じゃなくなって。小学校に上がるタイミングで、ぎりぎりショートボブかなーくらいには恰好ついた」  華奢な指に毛先を巻き付けながらそう言うと、陽は今はすっかり長くなった髪を慣れた様子で後ろに払った。
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