一、幼な妻の回想

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一、幼な妻の回想

 殿、主計(かずえ)様が、わが香月(こうづき)家の相続のために養子に迎えられたのは、十二歳のとき。まだ幼名を徳之助様とおっしゃった。  先代藩主であった父、香月玄高(はるたか)は、流行り病で正妻(わたしの母)と嫡子(兄、松丸)を喪い、自らも病がちとなる。継嗣なきは改易の危機である。父は、親類筋から養子を取ることを決意した。  香月藩三十万石の財政は破綻寸前だった。藩の苦境を乗り越え、財政を立て直せすには、聡明な藩主でなければならない。父が白羽の矢を立てたのが、中島藩山之内家の三男、徳之助様だった。十二歳の徳之助様は養嗣子となり、唯一残った(しず)姫(つまり、わたし)と婚約を結んだ。――その時、わたしはたったの三歳。
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