美里町ホームカミング 2

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 帰って来たお兄ちゃんは、最寄りの大きな病院に連れて行かれてから、そこからさらに遠い仙台の大学病院に入院した。お父さんとお母さんは近くのホテルに泊まってお兄ちゃんのお世話をすると言った。私は連休中はホテルで一緒に泊まっていたけれど、学校が始まったらひとりで家に戻ることにした。ホテルから学校に通う方が近いじゃない、とお母さんに言われたけど、教科書とか家に置いてあるから、と言い訳をした。本当はここにいたくないだけだった。  入院しているお兄ちゃんには何度か会いに行った。お兄ちゃんはぼんやりとした顔で本を読んだりテレビを見たりしていた。元々そんなに明るい性格なわけではなかったけど、こんなに表情に乏しい姿は初めて見た。  ゴールデンウィーク最終日。少しだけ、お兄ちゃんと二人きりになる時間があった。お母さんがお兄ちゃんの分の飲み物を買いに行き、お父さんが仕事の用事で電話をかけに病室を出た時だった。  「ありがとう」お兄ちゃんは言った。「はずむのおかげで、お父さんもお母さんもだいぶ落ち着いてる」  ああ、と私は呟く。「お兄ちゃんがいなくなってから、ずっとやってきたことだから」
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