田舎のアリス

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「はい。星口さんの跡を継ぐにしても継がないにしても、教養は必要だろうということで。働いていたのはいつか大学に通うためでもあったので、本当に嬉しかったです。高校を辞めたことは後悔してないです。でもやっぱり、普通に大学に行って、普通に勉強して……って人生に憧れていたので、星口さんには感謝してもしきれないです」  普通。私はその活字を見つめた。イケメン社長も普通に憧れていたんだ。でも普通ってなんだろう。私は両親の元で、お金の面ではなんの不自由もなく生活をしているけれど、普通の家庭とは思えない。イケメン社長から見れば、私の家庭はお父さんもお母さんもいる普通の家族なのかもしれない。僕よりはマシでしょ?と言われる程度の不幸なのかもしれない。何かが欠けていたとしても。  週刊誌を閉じ、顔を上げた。ちょうど館内にアナウンスが響いた。間もなく閉館の時間になります。ご用の方はお急ぎください。私はあたりを見回す。気がつくと図書館には私しかいなかった。慌てて立ち上がり、図書館を出る。まだ記事の半分も読み切っていなかったけれど、その時は借りなかった。
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