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図書館を出るとあたりは薄暗くなっていた。スマートフォンを出して両親からのメッセージを確認する。まだ何も来ていない。もう少しほかの所で時間を潰そうかなと考えていると、道路を挟んだ向こう側に小さな光が見えた。町の庁舎の裏口のあたりだ。光はスマートフォンの画面だった。
私はそこで初めて、人が立っていることに気がついた。女の人だ。リボンのついたワンピース。ゆるい巻き髪は童話の世界から飛び出してきたかのような可愛さだ。タバコを吸いながらスマートフォンをいじっている。思わず見つめてしまった。ほどなくしてその人も顔を上げた。しっかりと目が合う。私は彼女の顔を見て、思わず声を上げた。
「社長の彼女」
社長の彼女は一瞬だけ苦虫を噛み潰したような顔をしてタバコの火を消した。それから誰がどう見ても愛想笑いとわかるような笑みを浮かべる。「あちゃー、まだ図書館に人いたんだ」と言う声は鈴の音のようだ。
「い、いました」
どんな表情でも可愛い。私は少しずつ近づく。「タバコ吸うんですね」
「隠してたんだけどね。イメージ悪いし、社長もタバコ嫌いだから」
「ギャップ萌え」
「え?」
「いえ何でも」
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