美里町ホームカミング 1

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 ソファの上に置いたスマートフォンを手に取った。先に玄関へ出るか、お父さんに電話するか迷った。まずはお父さんに電話することにした。何度か呼び出し音が鳴るけれど、お父さんは出なかった。5回目のチャイムが鳴る。私はたまらず、スマートフォンを握ったまま玄関まで走った。いつもは何ということもなく開けられるドアの鍵が、手が震えてなかなか開けられなかった。嬉しいのか怖いのか怒りたいのか、自分の感情がよくわからない。ドアノブを握って内開きのドアを勢い良く開けた。  男の人はナイロン製の黄色と黒の上着を着ていた。髪は耳にかかるぐらいの長さ。私は言葉が出なかった。男の人は私を睨んだ。いや、多分睨んではいないのだと思う。昔から目つきが悪かったから。  スマートフォンが震える。お父さんからの着信だった。男の人はスマートフォンをちらりと見るけれど何も言わない。私は男の人から目を離さないままスマートフォンを耳に当てた。 「もしもし、お父さん」と私はあくまで冷静な振りをして話す。「お兄ちゃんが帰って来た」
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