電車乗ったらハイテクな異世界についた。SFの世界にも魔王がいるなんて!?

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「アンティークロボ!」  アンティークショップとかリサイクルショップとか古いものが大好きな私は、会社帰りは毎日そういうお店をまわって歩いている。今日出会ったのは、四角い頭と四角い体の銅色をしたロボットだった。 「何これ、めっちゃ可愛いんだけど! 特に顔が!」 「ああ、それ? 今朝、店の入口に置いてあったから売り場に出したんだよね~。いらないなら売ればいいのにね。結構汚れていたから売れないと思ったのかな? で、買う?」 「買う!!」  即答してロボットを買った。大きさは30センチ程で、材質も良さそうな雰囲気なので普通だったらかなりのお値段はしそうだ。でも、お得意様ということで格安にしてくれた。ラッキー!  家に帰るために電車に乗ると、出入口近くの椅子に座った。今日はいつもより人が少ないなと思いながら、いつものようにうとうとと眠りにつく。 ――――様、……く様。お客様!  ハッと目を覚ますと目の前には駅員さんが立っていて、「終点ですよ」と一言残して去っていった。  ぼうっとした頭で、外を見ると知らない大きな駅に到着していた。 「あああ、やっちゃったぁ……。どこの駅だろ?」  電車から降りて辺りを見渡す。真っ白で天井が高い。電車が十本くらいは停まれるほどの広さだ。の、わりには人が一人もいない。  終点でこんなところあったっけ?  でもまぁ、田舎の駅よりかは帰れそうだからいいか。  まずは駅名や時刻表の案内板を探す。 「は?」  駅名も時刻表らしきものはすぐ見つかったけど、何て書いてあるのか読めない。見たことのない文字で何語かもわからない。  いやいやいや、日本から海外への終点とかないし、えええ?  何度見ても読めない。  ポスターも同じ文字。それに見たことのないポスターの数々……。  待って待って待って。夢か? 夢の中なのか? 駅員さんの言葉はわかったし、ってそだ! 駅員さん!  改札に行けば駅員さんがいるだろうと、小走りで改札がありそうな方向へ向かった。が、私は慌てて足を止め、柱の影に隠れた。心臓がどどどどどと、早く走り出す。  ?!??!!  確かに見た。あれは人じゃなかった。  動物……の頭? 狼?  体は人間だから被り物?  コスプレデーとか何かか?  深呼吸を三回ほどして、柱の影からゆっくりと顔を覗かせる。  するとバチッ! と目があった!  ぎゃーーーー!!  嘘やん。何でやねん。目が合うなんて聞いてへん!! お、落ち着こう。せや、こういうときは笑顔や。  思考が関西弁になるほどパニックになってる私だったけど、なんとか営業スマイルを作った。 「どうしました? 具合が悪いのですか?」 「えっ? あ、はい。多分そうだと思います。ハハハ」  ゆっくり近づいてくる駅員さん……。わわわぁ、これって獣人っていうやつじゃ?  だってちゃんと目も口も動いてるもん。被り物じゃないよ、絶対……。どどどどどどどうしたらいいの? でも対応はまっとうな駅員さんだし、悪い人じゃなさそう……? 「それは困りましたね……。もうここは閉めないといけなくて――」 「ピー! ピピピピピ!」  駅員さんの言葉を遮るかのように、私が持っていた紙袋から機械音が鳴り出した。 「えっ!? 何? ご、ごめんなさい。えっと、まさか音が鳴るなんて思っていなかったので……」  慌ててロボットを取り出し、スイッチを探す。だけど、そんなものは見つからない。 「あれ? ピピさんじゃないですか? 帰ってきたんですね! ってことは、この方がパイロットですか?」 「ピピピピピ」 「え? ふむふむ……ああ、なるほど……。うーん、まぁ……ピピさん、人見知りですしね~」  よくわかんないけど、駅員さんは私が手に持つロボットと会話をしている……。やばい……絶対これやばいやつ……。逃げたい。今すぐ逃げたい。  うん、逃げよう。 「あ、じゃあ、このロボットあげるので、私はこれで!!」  無理やり駅員さんにロボットを押し付け、私は駆けだした。後ろから「待って」と声が聞こえるけど、待てないよ!! パイロットってなんだよ!! 駅員さんは獣人だし、ロボットと喋ってるし、ここどこだかわからないし、怖すぎるよ!!  ヒールを手に持って、広い駅をひたすら走る。階段も駆け上って、外に躍り出た。が、私は口をポカンと開けて立ち止まってしまった。沢山のネオンに高いビルはいいとして、空を!! 車が!! 走ってる!!!!!  右見ても、左見ても、私の知ってる世界じゃない!!!! 映画やアニメで観る……そう、SF映画の世界!!!! 「やだーーーーーーー!!!!!」 「はぁはぁ、やっと追いついた。えっと……とりあえず、ピピさんと一緒にドラスレイン本部に行きましょう。私が車で送りますから」 「ピピ―」 「やだーーーーーーー!!!!! 帰りたいですーーーーーー!!!!!」 「いや、でも、帰るためにもドラスレイン本部の許可証がいりますし……」  駅員さんの耳と尻尾が垂れ下がって、困っている様子だ。  ううう……行きたくない。けど、ここに放置されても困るぅぅぅぅ。 「いったいここはどこなんですか……」  か細く出た声は、騒がしい街の中に消えて行った。  ◇  駅員さんの車に乗せてもらい、空飛ぶ車というものを体験した。  空飛ぶ車……凄い……。  凄いけど、こういう体験はゆっくり歴史が進んで体験したかった。それだったらすっごいテンション上がったと思う。それくらい凄い。めっちゃ未来。未来過ぎてクラクラする。  でも、これは未来へタイムリープ?  いや~未来に獣人はおらんやろ……。  ってことは、異世界転移?  そういうの憧れてないし、自分に起きてほしくないです!! 「アキさん、大丈夫ですか? そんなに遠くないので」 「あ……はい。ありがとうございます……」  運転をする駅員さん……イルムさんは、とても優しい。こうやって何度も気づかいの言葉をかけてくれる。それに、私服姿もかっこよかった。声も渋くてめっちゃ好みです。でもでもでも! 助手席に座るピピというロボットと楽しそうに喋ってる姿は……怖い。  イルムさんがこの世界のことを色々と教えてくれたけど、まぁ、私の住む世界が違うってことがはっきりしただけだった。自分の行く末が不安で不安で泣きたいよぉぉぉぉ。  暫く走らせてると大きな塔のようなビルが見えた。いかにも上流階級の人しか入れなそうな建物。もしかしてここに入るのか? と思っていると、嫌な予感は的中してしまった。いや、アンダーグラウンド的な場所よりいいか……? うううっ、もうよくわかんない。 「アキさん、もうすぐですよ。大丈夫です、怖いところじゃないですよ」 「はい……」  考えても自分じゃどうすることも出来ないので、イルムさんの言葉を信じるしかないし、無事に帰れることを願うしかない。  ◇  だだっ広い部屋に通された私とイルムさんはソファーに腰を下ろした。ピピは、ドラスレイン本部の人に報告をするためにここにはいない。イルムさんも落ち着かない様子だ。 「あのー……イルムさんはどうして一緒にいてくれるんですか?」 「もしアキさんを元の場所に送ることになったら、俺が運転できますからね、車も電車も」  狼の顔でも笑顔だってわかるんだー。すっごい爽やかな笑顔を私に向けてくれている。 「ありがとう……ございます」  いい人だな。  早く帰れるといいな。  魔王を倒せとか言われないといいな。 「お待たせしました」  ブシュンっと音を立てて扉が開くと、ピピと耳が長い……エルフ? の美人なお姉さんが入ってきた。  やっぱりエルフだ……エルフがいる!!  凄い!! めちゃくちゃ美人!! 金色の髪がちょーキレイ!! ほっそ!! 体、ほっそ!! うわぁ~初めて見た~~~すご~~~~い!! ってか、この世界にいる種族っていったいどんくらいいるんだ?  なんて考えながらお辞儀をした。 「突然驚かれましたよね? ピピ、何も説明していないっていうもんですから……すみません」 「いえ……言葉、わからないので……」 「あら? ピピ、同期とってないの? もぅ、ちゃんと仕事してくださらないと困ります。アキさん、本当に何も知らずにここにいらっしゃるのですね」 「はい……」  足元にいるピピは申し訳なさそうにもじもじしている。  可愛いけど、ゆるせんぞ。 「では、改めまして。私、ドラスレイン本部防衛課エレナ・リーブルと申します。よろしくお願いいたします」 「防衛課……」  あああああ、嫌な予感しかしない。無理無理無理無理!!! 「今、この世界は間もなく魔王ドラゼンの脅威にさらされます」  そう言いながら、目の前にデジタルウィンドウみたいなものが大きく空間上に表示された。あー……こういうの映画とかで見たことあるなー……。ははは……魔王とか聞こえない聞こえない。 「管理システムではあと1386日後、北東にあるこちらの地下から復活すると予想されております」 「はぁ……」 「アキ様には、復活した瞬間に魔王ドラゼンを倒していただきます」 「はい?」  いや、予想はついていたよ。ついていたけど、この何のとりえもないしがない私に何が出来るというのか? 習い事と言えばピアノで、それも中学生まで。免許と言えば、普通自動車くらい。大学を卒業してコピー機の会社に入り、現在営業一年目。うん、何もできない!! できるわけがない!!  そう思って出来ない旨をお伝えし、丁重にお断りを入れました。が、とりあえず検査だけでも、と怪しい勧誘のようにあれよあれよと引きずり込まれていき、気が付いたらロボットに乗っていた……。  魔王倒すためにと言われ、治安管理や宇宙戦争で肩慣らしさせられ、一流のパイロットとして育て上げられた。エレナは凄腕の営業マンだと思います。  ピピとは同期も取れて、喋ってることがわかるようになり、戦闘時のナビゲーターを務めてくれている良き相棒となった。  休みの日はイルムさんが元の世界へ送り迎えしてくれるので、異世界へは行ったり来たりしている。異世界での様子を動画に撮り、CGクリエイターとして動画投稿サイトに投稿してみたら、超人気チャンネルになった。なので、現実世界も異世界もそれなりに良い生活を送っている。  で、魔王なんだけど、結局復活しなかったのよ。  異世界人にしか扱えないロボットとやらは確かにあったから、いずれ何か起きるかもしれないけど、詳しい人が調べて何かわかったら動けばいいよね。と思ってる。 「ピピピー」 「うーん、そうだね~。この生活も慣れたから、これからも防衛課で頑張ろうかなって」 「ピピピー!」 「そんなに喜んでくれるなんて、嬉しいな~。まぁ、最初は全くやる気なかったけど、平和を守るのも悪くないかなーって」  ハイテクノロジーの街並みを見下ろしながら、私は伸びをした。  コックピットを開け、よく体に馴染んだシートに滑り込むように座ると、輝く美しい白い機体が自分の手足のように動きだす。 「さ、ピピ! 今日も街の平和を守りに行きますか!!」 「ピッピピー」  私は、機体から翼を広げ、聳え立つ明るいビル群を超えて大空の先へ向かった――――。  
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