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「それじゃあ、ガトーショコラとアイスコーヒーをくださいな」
「かしこまりました」
マスターはディスプレイされている豆から一種類を選んだ。コーヒーミルに豆を入れ、丁寧に、細かく豆を挽いていく。それが終わったら、氷を入れたグラスに挽いた豆を入れたドリッパーを乗せ、熱湯を注ぐ。はからずしも店内に流れるスローテンポのジャズにあわせるように、ゆっくりと透明なダークブラウンの液体がグラスに流れ込んでいく。香ばしい香りがあたりに漂った。老婦人は鼻孔をくすぐる芳香をうっとりと楽しんでいる。
アイスコーヒーの準備が終わると、マスターは冷蔵庫を開けた。中には事前に注文されることが分かっていたかのように、ガトーショコラがひとつ。マスターはそれを取り出し、アイスコーヒーとともに老婦人の前に置いた。
「お待たせしました。ガトーショコラとアイスコーヒーでございます」
老婦人は少女のように目を輝かせた。
「ありがとう。この身体でなら気がねなく食べられるから、嬉しいわ」
彼女はさっそくフォークでガトーショコラを一口、口に運んだ。続いて、さながら蝶のごとく、淑やかにストローでアイスコーヒーを飲む。
「ケーキはやっぱり美味しいわね。甘くて、濃厚で。アイスコーヒーも香りが良くて、スッキリしててケーキによく合うわ」
そう言いながら老婦人は少しずつガトーショコラを食べる。アイスコーヒーも、ケーキの甘さとのハーモニーを楽しむように味わっていた。
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