祈り

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祈り

■ 湿った風がメイサの銀色の髪をなびかせる。 僅かな気候の変化を感じながら彼女は祈り続けた。 絶壁の山の中腹を(えぐ)り取った様な(みぞ)に建てられた(ほこら)がある。 一生の大半をこの祠で過ごさねばならない。 彼女の宿命である。 遥か彼方には水の都セレーヌへと流れる ロネ運河が見える。 セレーヌの水源であるロネ運河の河幅拡大工事は 数年掛かりの大事業であった。 干ばつに苦しむこの国がアクア・ラルタを開催する 為に必要不可欠な治水工事である。 その為に働き手の男達の死傷者は数知れず… メイサの暮らす貧しい村からも駆り出され 犠牲になる者もいた。 亡くなった者を想い彼女の涙が乾いた山肌に 落ちるのと同時に天空からも(しずく)(したた)り落ちた。
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