1話 仲間入り

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1話 仲間入り

「…ハァ…ハァ。」 俺は、逃げていた。 このままでは殺される。 そもそもあいつは能力を使えないはずなのに、どうして能力者である俺が逃げる羽目になっているんだ? でも、あの動き。 あれは非能力者の人間に成し得る技ではなかった。 あれは身体能力強化系の能力であっても、あんな動きをするのは難しい。 あんな動き、非能力者であるあいつにできる訳がない。 「もしかして、能力を使わずにあんな動きを…?」 そんな考えが頭をよぎったが、すぐにその考えを振り払った。 あの動きは、どんな人間が一生懸命努力したとしても到達出来ない域の動きだった。 俺のこの能力を持ってしても太刀打ちが出来ないほどだ。 「だったらやっぱり、能力者…?」 「いや、でもだったら、何であいつは分校にいるんだ?」 そこで俺は冷静になる。 今そんな事を考える時ではない。 今は逃げることだけに集中するのだ。 だが、俺とあいつの動きの差は明白。 逃げても意味がないなんてことは自分が一番良く理解している。 でも俺はこんな暗い路地裏でこの一生を終えたくない。 それにもしも、逃げて助かる可能性が少しでもあるとしたら。 この先を生きたいと思う俺は、その可能性に縋らずにはいられなかった。 その刹那。 「……あっ。」 可能性は儚く散る。 見ると俺の心臓に奴の手が深々と貫かれていた。 吐血し、胸からは血が四散する。 それはさながら花火のように。 「ぐっ……うっ…。」 俺は倒れる。 目の前が真っ暗になる。 俺は、死ぬのか‥? こんな所で。 しかも、奴の手によって。 あんな…落ちこぼれの…あいつに…俺を…倒せるはず…ないのに。 そうして俺の意識は深い闇の中に落ちていく。 そして…… ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「本校の奴らもこんな程度か。」 「もっと殺りがいのある奴だと思ったんだがな。」 目の前の男はもう動かない。 きっと息をしていることもないだろう。 だったら、俺はもう帰るか。 こんな暗いところにずっといたくない。 もう夜も遅いし、眠たい。 そう思い、帰路につくため踵を返そうとした。 「あっ。」 危ない、危うく忘れるところだった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「よし。」 ここにもう用事はない。 やるべき事も全てやった。 直に警察がやってくるだろう。 そうなる前に早く撤収するのが吉だ。 「これで俺も、犯罪者の仲間入りだな…。」 そう呟きながら、俺は改めて踵を返し、帰路につくのであった。
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