3話 一ノ瀬京香という少女

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3話 一ノ瀬京香という少女

それからというもの。 俺は急いで学園に行く支度をした。 今は学園へ行く最中である。 「このくらいだったら…歩いて行っても…間に合うだろ…。」 「だ、大丈夫?」 京香が俺の事を心配そうに見ている。 俺はもうヘトヘトだった。 家中走り回って身支度を済ませたが故に、俺は春の朝、汗を垂らしながら学園に向かっていた。 暑い…。 でも、唯一の救いは、今日は風が吹いているということだった。 最近ここらへんじゃあまり風は吹いていない。 これも異常気象というやつなのだろうか。 「でも、のろのろ歩いてると普通に遅刻するからね!」 「わーってるよ。」 今更だが、俺の名前は朝霧一馬(あさぎかずま)だ。 この名前は親がつけてくれたわけではない。 ここにいる一ノ瀬京香と、日村琉生(ひむらるい)が考えてつけてくれた名前だ。 俺は戸籍上、この名前で今を生きている。 俺ら3人は、元々孤児だった。 同じ孤児院で育てられた仲で、兄弟か、もしくはそれ以上の深い絆がある。 見ていたら分かると思うが、京香は物凄く面倒見の良いお姉ちゃん気質だ。 いつも俺や琉生の事を気にかけてくれている。 たまに京香が俺や琉生の家に来て、晩御飯を作ったり、洗濯などをしてくれたりもする。 そうやって考えてみると…… 「なぁ、京香。」 「んー?何?」 そして俺は京香に、1つの提案をする。 「俺ら一緒に住まね?俺と京香と琉生3人で。」 「はぁ!?何よいきなり!?」 すごい形相で驚かれた。 まぁ、でも普通の反応だわな。 何の会話の脈略もなくいきなりあんなことを言ったのだ。 こんな反応しない人間の方が逆におかしい。 「でも、考えてみれば…。」 そうして京香は口を開く。 「いつも一緒に学園行くのにわざわざ迎えに行くの大変だし、めんどいしね。」 「いや、そこかよ。」 思わず俺はツッコミを入れてしまった。 「えっ、そういう感じの話の流れじゃなかったっけ?」 「いや、話の流れは元々なかっただろ。」 「確かに。」 納得された。 その事に関しては、いきなりこんな話題を出した俺が悪い。 まぁ、そんな事はどうでもいいとして。 「そういう事じゃなくて、確かに京香の言ってる事もわかるけど。」 「家事とか大変じゃん。1人で全部こなすのとか。」 「あぁー。」 「だから、おんなじ家で3人で役割分担すれば、楽になるんじゃねぇのかって話。」 「なるほどねぇ。」 そう言いながら京香頷く。 「まぁ、それに関しては琉生も交えてまた改めて話そうよ。」 「それもそうだな。」 そうだ。 琉生もこの会話の場にいないと意味がない。 そこに気づかないとは、俺もまだまだ周りを見れていないな。 そう考えると、そうやって周りを見つめて、自分じゃない他の誰かを助けてあげたりするのって、俺ら3人の中じゃ京香が1番優れているな。 人間として生きる上でその行為はなくてはならないものだ。 そこも京香を見習わなければならない。 …やっぱり、京香ってお姉ちゃん気質だよなぁ。 「どうしたの?上の空になっちゃって。」 そうしてまた京香は俺の事を気にかけてくれる。 「いんや、なんでもない。」 「そう?」 「あっ、もしかして好きな人が出来ちゃったとか!?」 「ちげーよ!なわけあるかよ!」 「なーんだ、つまんないの。」 「あっ、ほら、もうこんな時間!走っていかないと遅刻しちゃうよ!」 「えぇー、走んのだるい。」 せっかく汗が引いてきたというのにまた汗をかかなくちゃならんのか。 「ほら、そんなこと言わない!早く走って!」 「えぇー。」 そんな言葉を交わしながら俺らは学園に向かう。 やっぱ、京香ってお姉ちゃんだよなぁ。 俺は、そう思わずにはいられないのであった。 あぁ、走んのだるい…。
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