5話 二人の少年

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5話 二人の少年

席につくと、少ししてクラス担任が教室に入ってきた。 すると、あれだけ凄かったざわめきが一瞬にして静まり返った。 こういう所だけ、ちゃんと躾がなってるな。 殺しは指摘しないのに。 殺しなんて、指摘どころか刑務所行きだろ、普通。 と、そんな事を考えていると、担任が口を開いた。 「えー、もう事情はある程度知っている奴らもいるかも知れないが、昨日、うちの本校の奴が何者かによって殺された。」 その瞬間、今まで抑え込んでいた何かが解き放たれるかのように、またざわめきが戻ってきた。 ひどく驚嘆してる奴もいれば、何を思ったのか、凄くテンションが上がっているやつもいる。 俺は気になって京香の方を見てみると、京香は落ち込んでいるようだった。 「静かに。」 そう担任が言葉を発した瞬間、さっきまでのざわめきが、まるでなかった事であったかのように再び静まる。 「あいつを殺した犯人はまだ見つかっていない。お前らも、外を出歩く時は注意するように。以上。」 そうして、SHR(ショートホームルーム)が終わる。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「本校の奴が殺されるなんてな。一体誰が殺ったんだろうな。」 終わって早々、琉生は俺のところにやってきてそう言葉をこぼした。 「あぁ、そうだな。」 俺が適当にそう相槌を返すと、 「…んな事言うと思ったかよ。」 琉生はそう言うと、俺の腕を掴んで誰もいない別の教室に入った。 「なんだよいきなり、こんな場所に連れてきて。」 「なんだよじゃねぇよ。本校の奴殺したって、それ一馬の事だろ。」 「何意味わかんねぇ事言ってんだよ。というか、そもそもどうして俺がやったなんて言い切れるんだよ。」 「ここら辺じゃ本校の殺るなんて、一馬にしか出来ねぇんだよ。」 「それに一馬、正義感も強いから、他の奴らいじめられてたら放っておけないだろ。」 確かにそうだ。 自慢じゃないが、俺は誰かが傷ついていたり落ち込んでいたりすると放っては置けなくなってしまう。 それが例え厄介事に繋がるとわかっていても、俺は手を差し伸べずにはいられなくなってしまう。 所謂、「他人のために動く」という事だ。 でも、助けてあげた人が笑顔になったりすると、俺も嬉しくて笑顔になる。 そういう観点から見ると、それは「自分のために動く」という事でもあると思う。 矛盾しているように聞こえて、それは案外矛盾していない。 俺は、誰かを助けて、笑顔になって欲しいという自己満のために、自分のために、他人のためになることをしている。 そんな事を考えていると、琉生が口を開く。 「俺は、さっき言った事が一番の理由だと睨んでいるけど、他にもあるんじゃないかと思ってる。」 「確かにさっき琉生が言っていたことも一つの理由だ。それじゃあ、もう一つの理由はなんだと思う?」 俺が琉生にそう問うと、琉生は、 「一馬のその能力だ。」 「と、言うと?」 「一馬のそれはまだ未熟だ。だから、育てる、というよりも、かき集めてるんじゃないか?」 「他の奴らの能力を。」 「……。」 「やっぱりお前だけは騙せねぇな。」 その通りだった。 俺には能力がある。 生まれ持った能力だった。 その能力は、「能力を吸収する能力」。 他人の能力を吸収して、自分のものにするというもの。 一度自分のものにしてしまえば、自由自在に操れるようになる。 生まれ持った能力は使いこなすのに時間がかかるのだが、この能力で吸収すると、すぐに扱えるようになる。 この世界には、同じ能力を複数人の奴らが持っている事もあるのだが、俺のこの能力は、世界に一つしかない。 だから、俺以外にこの能力を使ってる奴はいないし、この能力は、能力を吸収すればするほど戦略の幅が広がり、強くなる。 そんな能力だった。 ただ、俺がこの能力を使いこなせるようになったのはつい最近のことで、俺の能力はまだまだ未熟だった。 だから、もっと力をつけていかないとなぁと、そんなことを考えていると、 「全く、自分の目的のために戦う事は別に悪いと思っちゃいないけど、危険な事はするなよ。」 「なんせ俺らはもう兄弟同然。あるいはそれ以上だ。」 「そんな深〜い絆があるのに、勝手にころっと逝かれちゃったら、俺だってそうだし、京香だって悲しむんだよ。」 琉生がそんなことを言った。 「わかってるよ。ただ、俺にはどうしてもやりたい事があるんだ。それは前に琉生に話しただろ?」 「あの、『狂った世界を変える』ってやつか?」 「そうだ。今のこの学校の現状が、この世界を表している。先生達だって、生徒の死に興味を示してないんだぞ?」 「生徒の手前じゃあー言ってるけど、先生達からしてみたら、生徒の死なんてどうでもいいんだよ。」 「この世界だってそうだ。こうやって死ぬことが当たり前になってる。」 「それを当たり前にしちゃだめなんだよ。」 「まぁ、そうなんだけどな。」 琉生が相槌を打つ。 「それに、この世界は能力の格差がある。」 「子供はこうやって能力者と非能力者の差を埋められる事が出来るかも知れないけど、大人は無理だ。」 「独学で能力をつけることなんて不可能だし、この学園みたいな施設もない。」 「だから、この能力社会が成り立っているのかも知れないけど、それでも俺は間違っていると思うんだ。」 「非能力者なんか、人間として扱っちゃいない、奴隷みたいなもんだ。」 「そういう世界が、俺は間違っていると思う。」 俺が力をつけている一番の理由はそこだ。 この不条理で狂った世界を変える。 俺の目的はそこだった。 ただ、それは世界に楯突くという事だった。 世界は強大で、上には俺よりももっと強い奴がわんさかいる。 可能性は低いだろう。 でも、やれるかやれないかじゃない、誰かがやるしかなかった。 「まぁ、一馬の思いはわかったよ。それは止めない。」 「ただ、絶対に死ぬなよ。」 琉生がそう言うと、俺は笑顔を浮かべながら言った。 「俺が負けるとでも思うか?」 そう言うと琉生は、 「それが思わねぇんだよなぁ。一馬が負けるビジョンが浮かばねぇ。」 と、琉生も俺に笑顔を浮かべながら言った。 「まぁ、でも油断はするなよ。いつ何が起こるかわからねぇんだからな。」 「わかってる。」 「死んだら俺が許さねぇからな。自分の身が危なくなったら、すぐ逃げるんだぞ。」 「わかったよ。でも、やるしかなければやるだけだ。」 「そーかよ。」 そう言って琉生はまた笑顔を浮かべる。 琉生は、自分に親しい人がいたら、そいつの事を人一倍気遣って、そいつのために一生懸命になれる。 そういう奴だ。
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