8話 決着

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8話 決着

その勝負は、実に呆気なく終わってしまった。 最後までそこに立っていたのは…… 「俺か……」 俺だった。 「にしても、随分と早い決着だったな。」 「お前なら案外やれると思ったんだが、俺がちょっと本気を出すとこうかよ。」 目の前の男は地面に這いつくばっている。 まだ殺しちゃいない。 「お互いが地面を蹴った後はどうだ?数秒もせずにやられてんじゃねぇか。」 「もっと楽しめると思ってたんだがな。」 俺は目の前の男に言う。 「……何故だ。」 すると男は口を開く。 「何故、最初から本気を出さなかった。」 「そりゃ、不意を疲れたんだから、あぁなるに決まってるだろ。」 「俺はまだまだ経験が足りない。平和ボケしてる、どこにでもいる人間だ。」 「ってか、そんな話どうでもいいだろ。」 「お前はもう死ぬんだ。」 そうして俺は、男に近づく。 さっきの事があったから、俺はもう油断はしていない。 「言い残す事はあるか?遺言くらい聞いてやるよ。」 俺がそういうと、男は、 「何もねぇよ。」 そう言った。 (随分受け入れがいいな……) てっきり死にたくないとかそんな事を言うとばかり思っていたのだが。 少し疑問に感じたが、俺は考えるのをやめた。 「そうか、じゃあ……」 俺は自分のナイフを振りかぶって、 「死ね。」 そのナイフは男の胸に深々と突き刺さった。 血が四散する。 それはまるで花火のように。 「汚ぇ花火だな。」 俺はそう呟きながらナイフを引っこ抜く。 見ると、男は僅かに笑みを浮かべながら死んでいた。 俺は目を見開いた。 気味が悪い。 さっきの死の受け入れ様といい、この男は死ぬ事を望んでいたのか。 まるでそんな考えを彷彿(ほうふつ)とさせるような笑みだった。 「とりあえず、京香達のところに戻ろう。」 俺は、その男の能力を吸収し、京香達の待つ場所へと戻った。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー そこへつくと、京香も琉生もそこにはいなかった。 「もう家に帰ったのか……」 まぁ、さすがに何分もここに居続けるのもあれだし、帰ったと考えるのが妥当か。 春先だし、夜も肌寒いからな。 「心配だから、家寄ってみるかな。」 というわけで、俺は京香の家と琉生の家に寄ることにした。 だが、この胸のざわめきがいつまでも消えることはなかった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 不安は的中した。 京香の家にも琉生の家にも、2人は見当たらなかったのだ。 「……なんで。」 その事実に気づいた途端、不安に押しつぶされそうになった。 「いや、まだだ。」 まだ探していない場所なんてたくさんある。 少なくとも、この短時間でこの街を抜け出す事はないだろう。 この街は、それくらい大きな街だ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー それから俺は、街中を探し回った。 もう夜中を回っている。 睡魔だって、今にも俺を暗闇の中に引きずり込もうとしている。 だが、それ以上に不安が大きく、眠たいが眠れなかった。 もちろんと言うべきか、どこを探しても結局2人は見つからなかった。 そして俺はまた、さっき男と戦った場所へと戻ってきていた。 「どこ行ったんだよ……」 不安で胸が押し潰されそうだ。 そして、辺りを見渡したその瞬間。 「……はっ?」 俺は気づいてしまった。 さっきまであった男の死体がない。 「何故だ……?」 なんであの男がいない? 確かにあの男は死んだはずだ。 能力を吸収するためには、対象が死んでいないといけない。 そして、俺はさっき確実に能力を吸収する事が出来た。 そこから導き出される答えは、男は確実に死んでいるという事だ。 「じゃあ、一体……」 あの男はどこに行った。 「ここから、考えられる事は……」 俺がそう言葉をこぼしたその瞬間。 「がっ……!」 俺の首に、強烈な一撃が刺さった。 俺は膝から崩れ落ちた。 意識が急速に遠のいていく。 暗闇の中へ引き込まれていく。 考える事に集中しすぎて、周りを見る事が出来なかった。 俺はまだまだ未熟だ。 そう心の中で痛感しながら、俺は意識を失うのであった……。
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