9話 あのお方

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9話 あのお方

目が覚めたとき、そこは薄暗い部屋の中だった。 意識が覚醒して間もないため、いまいちここがどういう場所なのかわかっていない。 「ここ、は……」 段々と視界が開けてきて、辺りを見渡すとそこは、 「牢屋……?」 「ようやく目を覚ましたのか。」 声がする方へ振り向く。 「お前は……!」 俺は目を見開いた。 だってそこには…… 「どうした、俺の事を覚えていてくれたのか。それは光栄だなぁ。」 俺が殺した男が立っていたからだった。 「覚えているも何も、お前はさっき俺が殺したはず!」 「そうだなぁ。確かに俺はさっき1回殺された。」 「だとしたら、なんで……!」 俺がそう問い質すと男は、 「『あのお方』に復活させてもらったからだよ。」 「復活……?」 「なんだ、その『あのお方』とか言う奴は死人を生き返らせる事も出来るのか……?」 「そんな事出来るのか……?」 俺がそう言うと、 「それが出来ちゃうんだよなぁ。」 「『あのお方』は、戦闘能力に物凄く秀でていて、尚且(なおかつ)こういう回復系の能力まで持っているんだから。」 「まさに、最強の能力者だよ。お前なんか比じゃないくらいにな。」 男は自慢げに言った。 「ここは何処だ?」 俺は男に再度問い質した。 「ここか?まぁここは、なんて言ったらいいんだろうな。」 「まぁ、アジトみてぇなところだよ。俺達の。」 「もう一つだけ問う。なんで俺がここに入れられている。お前は俺を殺そうとした、なのに、何故殺さなかった。」 俺がそう言うと、男は、 「『あのお方』の気が変わってなぁ、お前を捕らえるように俺は言われたんだよ。なんでなのかはわかんねぇけどな。」 「そうか……。」 「まぁ、『あのお方』の事だから、何かお考えがあるんだろうよ。」 「お前はよっぽど『あのお方』って奴に信頼を寄せてるんだな。」 「そりゃな。」 「じゃあ俺は用事があるから。また様子を見に来てやるよ。」 そうして、男はいなくなった。 これからどうなっていくのかももちろん心配だが、やっぱり一番は琉生と京香の安否が心配だった。 今、どこで何をしているのだろうか。 大変な事になっていなきゃいいが。 そんな不安が、俺の頭の中をいつまでも駆け巡るのであった……。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー それからしばらくして、男はまた戻って来た。 「聞いて喜べ、『あのお方』が直々にお前にお会いになるそうだ。」 開口一番、男はそんなことを言った。 「なんだ、突然。」 「『あのお方』がお前に興味をお持ちになられてなぁ。そんな事滅多にないから俺達も今驚いてるところだよ。」 「それで、俺はその『あのお方』に会いに行けばいいのか?」 「そうだ。おい。」 男がそう呼びかけると、その後ろから3人ほど出てきて、 「この男を拘束して、『あのお方』のところまで連れて行け。」 「はっ!」 ……そうして、俺は手錠をかけられ、連れて行かれるのだった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 俺が連れて行かれたのは、屋敷のロビーのようなところだった。 そして、そこに1人の男が立っていて、それを囲むように男たちが立っていた。 「なんだ、お前等のアジトは屋敷なのか?」 俺がそう言葉を零すと、 「お前!久賀司(くがつかさ)様の前だぞ!なんだその口の聞き方は!」 「いや、別にいいよ。」 1人の男が口を出すと、それを久賀が抑える。 「『あのお方』って言うのは、久賀司の事だったんだな。」 俺は理解する。 そして、久賀が口を開く。 「テレビで1回位は聞いたことがあるだろう?」 「自分で言うのもあれなんだが、一応この国のトップである久賀司だ。」 「なんでこんなロビーようなところへ連れてきた。」 「私は忙しいからね、また他の所へ行かなければならないのだが、ここに寄ったついでに、君の顔を見たかったのさ。」 「何故俺に会いたがる?」 「そりゃ、君がこの世界で唯一無二の能力を持っているからさ。」 「まぁ、ここでその能力を言ってしまったら、君にも都合が悪いだろうから言わないけどね。」 何故お前が俺の能力を知っている? そう問い質そうとしたが、考えてみればそうか。 この久賀って男は、俺があの男の能力を吸収した後に生き返らせたから分かったのか。 吸収されたら、その男の能力はもちろん無くなる。 そこから予想がついたのだろう。 「ふむ、いい目をしているね。透き通っていて、引き込まれる。そして、その中にどこか闘志を秘めているような目だ。」 俺の事を覗き込んで久賀はそう言った。 「君と出会えて良かった。朝霧一馬君。」 「私はそろそろ行くよ。また会う時を楽しみにしている。」 そうして久賀は踵を返した。 「待て。」 俺はその男の背中に声を投げかける。 「一つ質問がある。」 「なんだね。」 久賀が振り返らずに声を上げる。 「お前が、この能力社会を創ったのか?お前が、この世界に能力をばら撒いたのか?」 俺がそう問い質すと、久賀は、 「それは違うね、一馬君。」 「この能力社会は市民が勝手に創り上げたものだ。私がやった事ではない。」 「じゃあ、なんでこの世界に能力というものが広まっている。俺が生まれる前じゃ、少なくともこんな物は無かったはずだ。」 そうだ。 能力というものは俺らの世代が生まれた年から広まっていた。 そして久賀は、俺らが生まれる1,2年程前にこの国のトップになった。 俺は、それがどうも怪しく思っていた。 「答えろ。久賀。」 そう言った途端に、周りの男達が俺の事を睨みつける。 俺が久賀の事を苗字呼びするのが気に食わなかったのだろう。 そんな事もお構いなしに俺は言葉を並べる。 「お前が、この能力主義社会を創ったのか。お前が、この世界に能力というものをばら撒いたのか。」 すると久賀は、 「……お喋りはもう終わりだ。私は今の言葉を覆すつもりはない。私がやった事ではない。」 「おい、お前ら。さっさとそいつを下げろ。」 久賀がそう言った途端、俺の周りを男達が囲む。 久賀はここで初めて俺を睨みつけ、怒りをあらわにした。 それに俺は返すように睨みつけるのだった……。
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