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ミレーヌが初めて出会ったとき、エアは推定二十代前半の成人男性だった。
黒髪に黒の瞳で、藍色のローブを身に着けた魔法使い。
「そんなに泣いてどうした。家族は」
森の奥深く。
梢の向こうに、わずかに日暮れの燃えるような空が見える夕方。
辺りの空気は青く澄みはじめ、木々の間から冷風とともに夜の気配が漂い始めていた。
幼いミレーヌには、エアがどこかから突然現れたように見えた。
そのことを不審がれば良いのか、恐怖すれば良いのかすらわからないまま、「いない」と告げる。
「たしかに、見渡す限りこの辺に人間はお前だけのようだ。なぜ子どもがこんなところまで、ひとりで」
泣きすぎて腫れた目、汚れた頬。くしゃくしゃの髪。着古して擦り切れたワンピースに、シミの付いたエプロン。ぼろぼろの靴。
ろくにしゃべることもできない、みすぼらしい子ども。
エアは言いかけた言葉を飲み込み、ひそやかなため息をついた。
「俺の名前はエアという。子ども、名前はあるか」
聞かれているので、答えなければならないと思ったが、声は出なかった。
エアは、その場でそれ以上何かを無理強いすることもなく、「とりあえずわかった。ついてこい」と一人で何かを了解した。背を向け、歩き出す。
ミレーヌには他にあてがなかったので、ついて行った方が良いのだろうと思った。
足が動かなかった。
エアは数歩進んでから「ん」と声をもらして、振り返る。
「手を……つなげばいいのか? 俺が? いや、そもそも歩けない?」
戸惑っているせいか、悩みが全部口をついて出てしまっていた。
その間、袖口から大きな手がのぞき、躊躇いながら差し出され、引っ込められる。
やがて、引き返してくるとその場に膝をついて背を向けてきた。
「背負う。乗るように」
体の線が出ないローブ姿だったので、それまでよくわからなかったが、大人の広い背中だった。
疲れすぎていたミレーヌは、倒れ込むようにその背に体を投げ出す。すぐに腕を回され、しっかりと支えられた。
エアは立ち上がり、森のさらに深遠へと至る道を歩き出す。
温かくて、骨ばって固くて、大きな背中。
ミレーヌはほどなくしてうとうとと眠りかけた。
ああ、そうか。
寝ている子どもは重いんだな。
そんな呟きが耳をかする。
まぶたが完全に閉じて、暗闇の中に意識は途絶えた。
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