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気持ち悪いほどの快晴があちこちを悪戯に照らす。4月に入って気温は20度後半を記録し、朝の情報番組でベテランの女性アナウンサーは真夏日だと話していた。そのせいか額に玉のような汗をかき、北川愛梨は道の真ん中でそれを拭った。 白いレースのスカートは膝小僧をすっぽりと覆い隠し、海を何度も濾したような水色の長袖は薄く、胸元に大きな隆起があった。その隆起を隠すほど伸びた黒髪の中に手を忍ばせ、鬱陶しそうに髪を払う。 北川は黒いショートブーツの底を鳴らし、調布橋の上を渡って十字路の先に向かった。 住宅街に入る手前、白と銀が混じる5階建の駒ヶ崎国際大学は自然の中に立っているように辺りを木々が囲い、落ち着いた雰囲気が住宅街に馴染んでいる。そしてその足元には大勢の男女が同じ方向へ歩いており、北川もその中に混じった。 二子玉川駅から徒歩5分、大学へ続く人混みの真ん中で明るい茶髪がクルリと回り、北川を見るとその女性はぱあっと表情を輝かせて大学生の流れに逆行した。 「愛梨、おはよう。」 汚れひとつない真っ白なパーカー、短いデニムパンツからは氷柱のような細い足が伸びている。森下香奈がその足をクロスさせながら北川の元に歩いていくだけで、周りの男性たちは皆その足を目で追っていた。 「おはよう。」 「ねぇ、履修登録もう終わった?私何取ったらいいか全然分からなくてさ。」 何気なく隣に立った彼女からはきつい香水の匂いがした。潰した苺を塗りたくったような赤い唇、そのまま羽ばたいていきそうなまつ毛を揺らし、彼女は退屈そうに言う。 森下香奈と北川愛梨は駒ヶ崎国際大学のAO入試にて出会った。集団面接の際に隣り合った2人は、入試を終えてすぐに意気投合し、合否が出ていないにも関わらず様々な場所に遊びに行く仲となった。 しかし北川はそんな彼女と、心のどこかでまだ馬が合わないと思っていた。 「うちら経営学部とはいうけどさ、別にそれが目的でここ受験したわけじゃないしさ。」 「じゃあ何が目的だったの?」 「そりゃもう…分かるでしょ。」 含みを持たせた笑みで森下は言う。その意味を理解できなかった北川が首を傾げると、彼女は悪戯っ子のような表情で声をひそめた。 「いい男探すためだよ。」 大学までの距離は残り10メートル、その中に様々な男子生徒がいた。まだ高校生気分が抜けていないのか不揃いな私服姿で歩く者もいれば、既に準備を済ませて髪を明るく染め、今流行りのファッションに身を包む者もいる。 そんな彼らの背中を吟味するように、森下は妖しい笑みを浮かべた。 「うちのメディア学部、アイドルもいるって話じゃん。だったらそこ狙うしかないでしょ。もう戦争は始まってるの。愛梨も参戦する?」 「いや、私はいいかな…。」 「消極的だなぁ。男の履修登録も忘れないようにしないと。」 上手い事を言ったと思ったのか、納得したように頷いて森下は先を歩く。その後ろ姿が大学のエントランスに吸い込まれていくのを眺めながら北川も妙に納得していた。
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