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東急ハンズ前の角を右に曲がり、路地に入ったすぐの所ラブホテルが建っている。洋風の薄暗い館のようなホテルに入り、部屋を選んでエレベーターに乗り込む。その間武本は緊張のあまり言葉を失っていた。 コテージのような部屋に入って扉を閉める。木目調のデザインが特徴的な空間には大きなダブルベッド、背の低い冷蔵庫に液晶テレビなどが置かれている。北川はベッドの足元にあるガラステーブルの上にトートバッグを置くと、ソファーに深く腰掛けた。そのまま地下へ沈んでしまいそうな柔らかさがジーンズ越しに彼女の下半身を包み込む。 「ほ、本当にいいの。彼氏さんとか…」 風呂場への入り口に背を向け、武本は恐る恐る言う。薄いクラシックがかかっている部屋の中は暖色系の明かりに包まれていた。 「彼氏なんていないよ。いたら来てないし。」 「そ、そうだよな。」 彼女の一言で安堵したのか、ようやく武本は背負っていたリュックを下ろし、北川の隣にゆっくりと座る。彼は終始落ち着かない様子で部屋の中を見渡していた。 「な、なんか不思議だよな。中学の時は普通だったのに、今ホテルだもん。」 そう口にする彼の目は、どこか輝いて見えた。湖の上に差す眩い太陽光。キラリと反射する水面をぐるりと回して武本は何度も座り直す。 「北川はさ、慣れてるの、こういうところ。」 「ううん。正直初めて来た。」 平静を装っていた北川だったが、豊満な胸の奥はばくばくと音を立てていた。肌を通してその音が聞こえないことに彼女は心の中で感謝した。 6度座り直し、彼の手が北川の手の甲に触れる。その瞬間2人はほとんど同じタイミングで唾を飲んだ。 恐る恐る2人は向き合う。暗いオレンジ色のソファーの上で向き合い、やがて顔の距離が近付く。ミートソースの香りが鼻先を掠めた時には既に唇は重なっていた。 触れるようなキスから、やがて作物を食い荒らす獣のように貪る。相手の口を割って歯茎すら飲み込んでしまうほど2人は深い接吻を続けていた。 唾液の混ざり合う音が脳内に直接響くようで、全身の力が徐々に抜けていく。北川はそのまま彼に身を預けた。 指先にふと触れた硬い感触に彼女は驚いていた。チノパンの舟形の裏で膨張した彼の陰茎は、既に打ち上げられた魚のようにびくんと跳ねている。北川はその筋に沿って指の腹を這わせた。 「あっ、ちょっと…」 お互いの舌先を絡めながら彼は呟く。負けていられないと思ったのか、武本はおもむろにレースシャツの上から胸の膨らみを掴んだ。 彼が指を折り込む度にブラジャーが変形し、乳房が潰れる。しかしその手つきはただ肉を掴んでいるだけで、決して快感を生んでいるわけではない。自分で太ももを揉んでいるのと何ら変わらないと彼女は思った。 徐々に2人の体は内側に狭まる。薄暗い瞼の裏で彼女は考えていた。 ここで自分が淫らな姿を見せなければ彼は余計に自信を失うことだろう。武本が下手くそではないという事実を証明するためには自分が状況をセットしなければならない。妙な使命感に駆られた北川は、わざと吐息を漏らしながら言った。 「気持ちいい…。」 そう一言告げるだけで彼は乳房を揉む力を強くする。しかし徐々に痛みが生じ、彼女は方向転換することにした。 手探りでチノパンのファスナーを掴み、ジッパーをゆっくりと下ろす。完全にファスナーが開くと膨張しきったペニスはトランクスの前から顔を覗かせる。先端から透明の液体がどろりと漏れ、赤くなった雁首は油を塗ったように濡れていた。 「だ、だめだ、それ。やばい。」 あっという間に硬度を宿している陰茎を優しく持ち、親指の腹で先端を軽く撫でる。徐々に乳房を揉む力が弱まり、北川はほっと胸を撫で下ろした。 顔を離して2人は荒い息遣いのまま見つめ合う。既に彼は戦闘態勢に入っていたものの、北川の秘部は乾いたままである。そのため彼女はなるべく甘い声を心がけた。 「ベッド、行こ。ゆっくり触って…?」 「わ、分かった。」 今彼の心臓に針を刺せば、とてつもない量の血飛沫が舞うことだろう。そう思うほど武本は呼吸を荒くしていた。 ソファーから立ち上がって彼は先にベッドへ向かう。視覚でも彼の興奮状態を向上させようと、北川は躊躇なくレースシャツを脱いだ。 4年ぶりに再会した同級生の前で、彼女は下着姿となった。白い布の表面には淡い桃色が滲んでいる。なるべく良い下着を身につけていて良かったと安堵する彼女の前で、武本は秘宝を見つけたような表情を浮かべていた。 胡座をかく彼の前に体を沈ませる。大学の身体検査でサイズが少し大きくなった胸を寄せ、彼女は勿体ぶったように言う。 「私、胸がすごく、感じるから…。その、舐めて欲しいな。」 背中に腕を回してホックを外し、たっぷりと時間をかけて乳房を露わにする。柔らかな肉の上で佇む小さな桜桃が外気に触れた途端、武本はそれに飛びついた。 重なった2人はベッドに沈んだ。貪るように舌先で乳頭を転がし、悪戯に乳房を揉みしだく。彼女の上に覆い被さった彼は唾液で乳房の表面を濡らす。 それを狙っていた彼女は2人の間に手を忍ばせ、自らショーツの中に右手を滑り込ませた。指を2本折り曲げて膣の表面に触れる。ほんのり湿ってはいたものの、受け入れ態勢が出来ているとは言えない。北川は中指の腹で陰核に触れると、爪で軽く弾くようにした。 きちんと快感は生まれた。爪で引っ掛け、指の腹で押し潰し、優しく撫で回す。次第に尻の肉が痙攣を始める。1人で弄っていることがばれないようになるべく音を殺し、北川は喘ぎ声だけを漏らす。 下手くそだと自負している彼だったが、それでも一定時間愛撫が続けば相応の快感は生まれるものである。彼女が強く感じる箇所を探し当てたのか、武本はすっかり立ち上がった乳頭の周りを強く舐め回し続けていた。 それも合わさって膣を濡らした北川は、なるべく切ない声で彼に言った。 「あっ、すごい気持ちいい…武本、欲しいよ。」 「え、あ、ああ、分かった…。」 フルマラソンを完走し終えたような息遣いで彼は上体を起こす。ふと見上げた先にある電光パネルのそばに避妊具の小袋はあった。慌てた様子でそれを掴み、ビニールを剥ぐ。 彼女は静かにショーツを脱ぎ、布をソファーへ放り投げた。弧を描いてパンツがガラステーブルに乗る。それに気が付くことなく彼は薄いゴムを熱い肉棒に纏わせ、北川を見下ろした。 「い、挿れていい…?」 まるで食べ物を乞う貧相な幼子だった。自分が淫らに、そして高らかに喘ぐことで彼は自信を取り戻す。 何故北川が体を使ってまで彼のために尽くすのかは、中学生の頃の記憶にあった。 14歳の夏、中学校生活もいよいよ折り返しだというときに、彼女は武本へ密かに想いを抱いていたのだった。その気持ちは卒業式前まで続いた。性的な知識を覚えたばかりの男子生徒が話す行為の詳細に興味を抱いていた当時の北川は、武本とならそういった淫らな行為をしてもいいと考えていたのだった。それが数年越しに、池袋のラブホテルの一室で実現しようとしている。 既に彼への好意は消え失せていたが、過去の自分が抱いていた遺恨を払拭できるのであれば、一度のセックスは構わないだろう。彼のためでもあり、過去の自分へのためでもあると思った彼女は、みっともなく両足をぱっくりと割り、小さく頷いた。
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