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武本の行為は決して下手くそではなかった。 慣れていないためにぎこちなさはあるものの、そのもどかしさが快感を焦らし、その波は体の表面で往来する。自ら快感を求めないようにしていた北川だったが、途中で本来の目的を忘れてしまうほど高らかに喘いだ時もあった。 正常位を終えて2人の立場は逆転する。ベッドの上で寝そべる彼の腹に手をつき、武本の上に跨った北川は膝をついて腰を突き出す。緩やかな波をイメージしていた。 押しては引き、引いては押す、分泌液が淫靡な音を立ててクラシック音楽に混ざる。頸に垂れる汗から髪を離し、毛束をまとめて右肩にかける。 その間も北川は切ない表情を忘れなかった。 足を立てて結合部が明かりに照らされる。太ももを下から掴み、武本はぎこちなく腰を突き上げた。 体の構造は不思議だった。北川が上に跨るだけで、先ほどの体位では届くことのなかった位置まで、武本のペニスが届くのである。しかし彼はその事を知らずに、ただがむしゃらに腰を突き上げていく。その都度雁首が膣の奥をノックする。水風船のような乳房が円を描くように揺れ、溺れた海藻のように黒髪が舞う。 やがて臀部からぞくぞくと快感の波が押し寄せ、背骨を伝う。北川はいつの間にか絶頂の手前に差し掛かっていた。 「あっ、ああっ、ダメ、いっちゃう。」 ゴム越しの肉棒と粘液が擦れ合う。既に本来の目的をどこかに置き去りにしていた彼女は不規則に痙攣する感覚を止められず、彼の両膝に手をついてそのまま絶頂へ向かった。 「いいよ、いっていいよっ。」 「んっ、はぁっ、いくぅ…」 漏れる声を飲み込むようにして全身を大きくびくんと震わせる。激しい突きのせいかぐったりと力を無くし、北川は彼の上に倒れ込んだ。 膨らんだ乳房の裏を心臓がばくばくと叩く。その鼓動が彼に伝わったのか、短いため息をついて彼女の後頭部を優しく撫でた。幼子を慰めるように彼は耳元で優しく呟く。 「気持ちよかった?」 「う、うん…」 短い呼吸を繰り返して彼女は答える。2人は薄い避妊具越しに肉体を繋げたまま、ぐったりと重なっていた。 「お、俺も、もういきそうなんだけど…いいかな。」 「いいよ。」 ぶっきらぼうに答えるも、興奮状態に満たされていた彼に声の中身までは届いていなかったようだった。 彼女の了承を得て腰の動きを再開させた武本は北川の尻の肉を掴み、がむしゃらに腰を突き上げる。その時彼女は一度絶頂を迎えて良かったと安堵していた。ぐったりと項垂れることで表情は一切彼に見られることなく、退屈そうなため息も淫らな吐息に聞こえることだろう。 「あっ、き、北川、いきそうだ…」 肉と肉が衝突する音が鳴り響く。彼女が最後に漏らしたため息は結果的に彼の絶頂を促し、武本は北川を強く抱きしめながら、深々と射精した。 彼女の中で熱を持った肉棒がどくんと畝る。薄いゴムに向かって欲を吐き出し続けた武本は北川を抱きしめながら、耳元で荒い呼吸を繰り返す。徐々に硬度を無くしていく陰茎を感じながら、北川は部屋の電気や音楽を操作する電飾パネルをじっと睨みつけていた。 ゆっくりと腰をあげると間抜けな音を立てて彼のペニスが腹に倒れる。力無い陰茎を包むコンドームの先端は中途半端に膨らませた風船のようで、どろっとした精液が蠢いている。それを横目で見ると彼女はそそくさとベッドから降り、くたびれたように置かれているブラジャーを攫う。慣れた手つきで乳房に纏わせ、ガラステーブルの上に置かれたショーツを履いていく。 その間武本は射精の疲労からか、仰向けのまま白い天井を眺めている。呼吸のリズムと同時に腹部が上下に揺れていた。 テレビの前に置かれたティッシュでぐっしょりと濡れた膣の表面を拭き取り、屑を小さなゴミ箱の中に放り込む。腰回りにショーツをぴったりと貼り付けてからジーンズに足を通し、レースシャツを手に取る。その流れはあまりにもスムーズで、到底セックスの後とは思えない動きであった。 「はぁ…き、北川、どうだったかな。俺って下手くそかな。」 「ごめん、私帰るね。」 ぶっきらぼうに吐き捨てた北川は全身鏡の前に立ってレースシャツの裾を整える。突然の一言に驚いたのか、武本は全裸のまま飛び起きると慌てた様子でベッドから降りた。陰茎から垂れ下がるコンドームは風鈴のように揺れている。 「な、なんでよ。急にどうしたの。そんなに俺ダメだったかな。」 「いやもう、ちょっと。」 「待ってって。せめて連絡先くらい交換しようよ。」 その時彼女の中を支配していたのは、鉛のようにずっしりとした憂鬱な思いだった。それはセメントのように固まって心の奥を黒に舗装していく。 やがて北川はガラステーブルの足元にあるトートバッグを手に取ると、ゆっくりと肩にかけてから武本を見た。 それまでは恋していた同級生に見えていた彼の輪郭は徐々に朧げとなり、砂の城が崩れ去るように、彼の姿が消えていく。武本のために体を差し出そうと決意していた数時間前の自分が嘘のように感じ、さらに北川は塞ぎ込んでいった。 ホテルの扉を開ける手前で後ろを振り返る。武本は彼女に追いつこうとコンドームを丁寧に取り外し、ティッシュで濡れた陰毛を撫でていた。 その様子をぼんやりと眺めた後、北川は躊躇なく扉を開けて廊下に飛び出した。
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