社員旅行二日目

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「幽子って名前に心当たりないか?」  核心的なそれに背中が冷えました。  息が乱れそうで、一度唾を飲み込んでから小さく首を左右に振ります。 「知らないです」 「本当に?」 「はい。心当たりはありません」  課長は完全に疑っているようですが、自分が幽子だと認めることはできません。  認めてしまったら最後です。  課長に嫌われます。今まで散々騙してきたことを咎められます。  嫌われて当然で、咎められるべきなのに、浅はかな私はこの期に及んでも尚、誤魔化すことを考えてしまいます。 「山瀬さ、なんでいつもマスクしてるの?」 「花粉症が...」 「...ふーん。顔を隠したいとかじゃなくて?」 「違います」 「...じゃあ、額に傷はある?」 「な、ないです」 「見せてくれないか」  課長の脚が一歩出るだけで距離が一気に縮まります。  逃れるように後ろに下がりましたが、すぐに踵に壁が当たってしまいました。逃げ場所はもうありません。 「マスクと眼鏡、外せないか」 「外せませんっ。あのっ、私、その幽子さんのことは知りませんし、課長の仰いたいことも理解できませんっ」 「顔を確認したいだけだ」 「できません」 「なんで」 「な、なんでって...」  そんなの、私が幽子だからに決まっています!  ああっもうこれは、疑っているというより確信してますっ!  どうしましょうっ!  もうこれは、切り抜けられない状況ですっ。
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