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開けた口からは、ごめんなさい、を言うつもりでいました。
しかし、その声が発される前に、引戸を叩く音が外側から聞こえてきたのです。
「お布団を敷きに参りました。失礼してよろしいでしょうかぁ?」
二人して目を見開いて横へ顔を向けたのですが、状況が状況なだけにすぐに返事ができません。
課長にある意味迫られている姿を見られるのは困ると思いつつ、これは危機を脱するチャンスなのでは、とも思ったりして、返事に迷っていると。
ピッと電子音が聞こえ、引戸がサーッとスライドしました。
「まっ!」
「あらっ!」
「あれまっ!」
声をあげたのは三人の仲居さんでした。
私たち同様、目を丸くしてこちらを見ています。
「し、失礼しましたっ。あの、お布団を敷きに来たんですけどもぉ、あの、お邪魔してしまったみたいで」
「あ、いや。えーと、ですね...」
突然のことに言葉を詰まらせる課長は、よっぽど動揺したのか私の手首を離しました。
私はその隙に梅の間を飛び出し、廊下を走り抜けました。
土下座で謝罪しようとまで思っていたのに、私はどこまでも浅ましく卑劣な女です。
救いようが、ないですね...。
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